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小説「怪異談 忠臣蔵」01

小説

怪異談 忠臣蔵

〜ゾンビが出てくるやつ〜

 

(連載1)

 

 江戸幕府開設から、およそ百年…。

 内に謀反を企てるものもおらず、外に辺境をうかがう敵国もなく、殷富繁盛、華奢風流を極めた、元禄時代。

 

 この物語は、人心の腐敗したその元禄時代に恐れられた、ある化け物騒ぎの、鎮静までのいきさつである。

 

 

 一 大序

 

「もがぁ」「がらがらがら…」「ううう…」

 十尺もあろうかという、どでかい塀の内側から聞こえてくるのは、乾いた大あくびのような、そうかと思うと低い嗽の音のような、人が呻いているような、そういう気味の悪い音だった…。

 その音色に、今日に限って、黒雲のように上空を飛び交う無数のカラスの鳴き声と、近くの溜池の水鳥の下賎な声とが風に混ざって、なんとも異様な調和を作り出している。

 それがもう、あたり一面にうるさいくらいに響きわたっていた。

 

 そのころの中野は、江戸府外の田園地帯で、それはたいへん淋しいもので、逢魔ヶ時ともなれば人っ子一人も無い。

 陽が沈んでも月の出は遅く、あたりは陰気に青黒く染まってきている。

 そのだだ広い原っぱに、塀に囲まれた、十六万坪とも言われる敷地に建てられた、真新しい建物が、ドーンと要塞のように広範と構えていた。

 それは「御囲い」と呼ばれ、江戸中の野犬が保護されている、…と、おおやけに言われている施設である。

 

 まことに不気味なこの景色に、酒を呑んで蹌蹌踉踉の千鳥足で、職人風のふたりが肝試しにやってきた。

「おおっあれだあれだ。ちんころ屋敷めっ」

「へえ。ずーっとむこうのほうまでつづいているなあ」

「なんだつまらねえ。壁があるだけじゃねえか。…よう、帰りが面倒だから戻ろ」

「…なあ兄弟…聞こえるか…ぜんたいありゃあ、犬の声かえ?なにか絞めてやしねえかね?」

「おお。いやだ、いやだ」

「…うちのじいさんが息を引き取る時に、痰をからめて、ああいう声を出していたよ」

「よせやいこん畜生。なあ戻ろってばよ」

「フン。息を引き取るどころじゃねえや。こっちは干上がってるってえのによ。お犬様ときたら、日に三度三度っつ、白い飯を、おめしあがりあそばしたてまつるっていうじゃねえか。たかが知れたちんころによぉーっ」

「シ!つまらねえことを怒鳴るなよ」

「むしゃくしゃするから、石でも放り込んでやろうか」

「よさねえかバカッ。あすこでさっきからお侍が、こっちを見てっじゃねえか」

「はてね。ありゃあオサムライか?見回りかしら。あんなところで一体なにを…」

 この当時は珍法の下、畜類が手厚く加護され、犬を悪く言うことさえも御用の目を憚らなければならなかった。

 だから職人の片割れは、酔った上での戯言で、いちいち役人に咎められるのは、まっぴらだと思ったのだ。

 五間ほど先の柳の下に立っていた、年の頃三十なかばほどに見えるその侍は、大小刀を腰に打ち込んではいたが、あたりまえのこしらえではない。

 黒いシコロずきんを頭にいただき、篭手や脛当ても厳重にして、陣たびに陣草鞋を履いている。

 火消し装束にも見えるが、小脇に穂がむき出しの、鍵付きの七尺槍を抱えていた。

 黒小袖にたっつけ袴の姿は、もう少し暮れたら闇に溶けこみそうである。

 その侍、職人風の二人をチラチラ見やりながら、右手首の篭手の紐を、もう片方の手と前歯で、器用に結びなおしていたが、

「ん?」

 と、なにかを見つけたかのように怪訝な顔色をし、張子の虎のように首を突き出して、目を見開いたり細めたりしながら、しげしげふたりのほうをうかがっていたが、ピタッと一点に瞳を定めたかと思うと、そのままつかつかつかっと近寄ってきた。

「おいおい、こっちへ来るぜっ!言わねえこっちゃねえやっ」

「エッヘヘ、どうかごかんべんを!酒が過ぎました」

 侍は町人たちに二間ほど近寄ったところで、やおら姿勢を低くして、槍を持ち替え突進してくる。

「ひい!お命ばかりは…」

 一人の腰が砕けた。

 ところがその侍は

「よれいっ!」

 と、大きく叫ぶとふたりの横をスッと通り過ぎ、いつの間にか彼らの背後まで忍び寄ってきていた、散らし髪で、乱れた寝巻き姿の男の胸のあたりを、槍の石付きで思い切り突き倒した。

「ミシッ」

 いやな音がして、素っ飛んだかと思うと男の体は、腐って幹折れした、小さな木に背中からしたたかぶつかった。

 男は悲鳴も挙げず、身悶えする素振りもない。

 すると間もなく、幹の尖った部分が「ズブリッ」と、背中から胸のあたりを貫いた。

 男のからだがズズズッと下の方へずれる。

「げええ…」

 ゲップのような音がする。

「ひえーっ」

 オタオタする職人たち。

 一瞬、寝間着の男はガクッと頭を後ろに倒したが、すぐまた三人のほうに首をもたげる。

「さてこそ怪物!」

 侍が大きな声を上げた。

「うへえ!」

「ひとごろしだあっ!」

 キリキリ舞をして逃げ出す、職人ふたりに

「待てっ!」

 侍は声をかけたが、酔っぱらいは

「あーばよっ。きーばよっと」

 と強がって、なんだかよくわからないことを言いながら、松並木のくらがりに消えていった。

 

 

 

 

 侍は寝間着男の胸ぐらをつかまえると、樹幹から体を引き抜いてその場に放り出し、バッタリと倒れた仰向けの男のうすっぺらい(穴の開いた)胸のあたりを、グイと踏みこんだ。

 また妙な音がする。

 倒された男は、ただひとつ「がらららら」と妙な雄叫びを上げただけで、あとは黙って朦朧とした表情を一切変えず、ただ踏み伏せられて、ゆっ…くりと、もがいている。

 苦痛に悶絶する様子が一切、無い。

 自分を踏みつけている足を、退けようとするでもなく、痩せ枯れた手足を、ただただ蠢かせているだけだ。

 虫けらを裏返しにした時の様子にも、よく似ていた。

「…やいっ…」

 侍はもがいている男に、上から声をかけてみるが、返事は無い。

 「犬屋敷」と呼ばれていた「御囲い」の中では、世間では約六百万頭の犬が飼われていると言われていたが、塀の内側からは、この一連の不審な声や物音に、犬の子一匹の咆哮も無かった。

 この乱暴ないきさつとは裏腹な、不気味な静寂の中で、相変わらずか細い無数の呻鳴り声だけが、塀の中から聞こえている。

 

 そこへ塀伝いに提灯を持った、この侍の中間(ちゅうげん)らしき中年男が駆け寄ってきた。

 中間は主人の足の下で、虚空に溺れている怪人の様子に、一瞬たじろいだ。

「あっ旦那様!?」

「おお勝助こっちだこっちだ…。お前が灯りを持ってくる間に、またひとりとらえたぞ」

「返り血は?」

「なんの浴びておらん。そいつを当てろ。震えるな」

 中間は提灯を差し付けると、倒れている男の顔を見て

「ううわッ」

 と、思わず叫んだ。

 その落ち窪んだ目はカッと見開かれ、真っ赤に充血し、黒目は濁り、ギョロギョロと焦点が定まらず、顔色は血の気が失せて、肉は落ち、頬骨は高く現れている。

 乾ききった灰色の肌には、顔と言わず腕と言わず、ところどころに緑色の粉らしいものを吹いている。

 どうやらカビである。

 口もとに、かさぶたらしきものがウヂャけていた…かのように見えたが、実は鼻の頭あたりの皮から上唇そのものが、ごっそりと剥がれてしまって、無い。

 ところどころ抜けた上の歯が、歯茎とともに剥き出しになっていた。

 この容貌からは、歳のころがさっぱりわからない。

 中間のほうを見ているのか見ていないのか、提灯の灯りをちょっと気にしているふうにも見え、首をグラグラユラユラ振り回していたかと思うと、自分の胸元を踏んでいる侍の足に、隙を突いて「喰らいつこう」としているようにも見える。

「カプッ」

 と、間の抜けた、歯の噛み合わさる音がする。

「どうだ勝助。こいつはまた気味が悪いのう」

「ふう。まちがいなく変化(へんげ)のものでございますな」

 と中間・勝助は怖気ぶった。

 はじめこそ、好奇の目で穴のあくほどジッと見下ろしていた侍であったが、そこへブンッと飛んできた蝿が一匹、倒れた男の歯茎に止まる。

 すると侍は、なにやら哀れに思ったのか(はたまた不快に思ったのか)、表情を硬くして槍を取り直し、灯りをたよりに倒れた男の真眉間に、慎重に切っ先を定めるた。

「うんっ」

 と言って、侍はまっすぐ突き通す。

 宙を泳いでいた男の手足が、ベタリッと地面にへばりつき、男の動きがすっかり止まった。

 中間が目をそらして小さく念仏を唱える。
 近くの栗の木が、風を受けてサラサラ言っている。

 

小説「怪異談 忠臣蔵」02に進む。>●

 

+++++++++++++++++++++

〜解説〜

空前のパロディ小説、いまここに解禁。(笑)

こんなプロローグで、ど〜忠臣蔵になっていくのやら、でございます。

後輩と話してて「それ、いいね!」と思った、ある1場面。いつか出てまいりますその場面のために、前後ををふくらませております。

 

今後とも宜しくお願い致します。

 

 

 

| もりいくすお | - | comments(4) | trackbacks(0) |
コメント
古くは四谷怪談、新しくは角田喜久夫や朝松健、怪談仕立ての忠臣蔵という趣向は色々ありますが、もりい版がどのように展開するのか、乞う御期待ですね!
(と、ハードルをたかくしておく…w)
| ゆらおに | 2019/10/07 7:23 PM |

おにさん
あぁっはっは!
あたしはどの趣向も存じ上げませんで、唯「忠臣蔵」と「ゾンビ」しか知りません。
そういうあんにゃもんにゃがご提供。
| もりいくすお | 2019/10/07 11:23 PM |

日本だとだと亡霊はうろつきますが、ゾンビはあまり出てきません。当時は土葬ですから、出て来やすいはず?
| ゆらおに | 2019/10/08 6:09 AM |

おにさん
さぁ、どうなることやら!?
(^O^)
| もりいくすお | 2019/10/09 7:17 PM |

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