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小説「怪異談 忠臣蔵」02

小説

怪異談 忠臣蔵

〜ゾンビが出てくるやつ〜

 

この作品はフィクションです。文中に出てくる名称と、実在の個人名、団体名とは一切関係がありません。

 

(連載2)

 

 侍が血のついた槍を横に軽く払うと中間は、気を取り直して懐紙を取り出した。

 中間は手覆をつけている。

「そういえば先ほど、ふたりほど、町人と擦れ違いましたが」

「お囲いを見に来た野次馬だ。三人連れかと思うておったら、此奴があのふたりに忍び寄ってきて、危ないところだった」

 侍は死骸を見下ろしたまま、急に笑いだし

「フフフフッ町人め、こいつを恐れてではなく、俺を辻斬りと間違えて、横っ飛びに逃げて行きおった。酒に罪は無いわい」

「…さようで、ございますな…」

 差し迫ったときでも、こうして砕けた態度でいられるこの侍を、中間はたいがいの場合「性根が座っていて、すごいな」と思ったものだったが、何割かはいつも呆れていた。

 この日ときたら、いまのような生きた心地のせぬ、睾丸(きんたま)が縮み上がるようなことが立て続けに起きていて、中間はとびきりこわくてたまらないでいる。

 こわばった笑顔を精一杯に作って、侍に向けてから、つきだされた刃を紙で挟み、両手で注意深く拭いを掛ける。

 

 侍が懐から呼子を出して吹くと、間もなく灯りがいくつもやってきた。

 その侍に似た風体の男がひとりと、役人風が何人か。総髪の男。それに突棒を持った三〜四人の番太だ。

「高田うじ!」

 駆けつけた、同じ火事装束風の男が叫ぶ。

 こちらは鮮やかな朱鞘の大小を、たばさんでいた。

「やったのか」

「うん。…生け捕りにしたかったがな。町人が襲われそうだったので、よんどころなくやっつけた」

 実は「なんとなく」退治してしまったくせに、高田というこの侍は、ちょっと誤魔化して伝えた。

 殺したのは捕縛して、しかるべき場所に戻さなければいけないというお触れの出ている、公的には便宜上「病人」とされている者であったのだ。

 いま駆けつけた、同じ黒装束の男が興奮気味に言う。

「えらいことになったぞ。やはりほうぼうの塀が壊れておってな。長屋の戸が開け放しになっておった。此奴らは、そこから逃げたのだ」

「壊れていた…?」

「我らが到着してからこれまで、とっ捕まえたのと、こいつを入れて十人ほどだが」

「安兵衛。それでは、ことによると何百と逃げ出しているかもしれないぞ」

「それさ」

 火事装束ふたりの会話を聞いていた、役人風の男たちが

「滅相な…」

 と、途方に暮れたように長嘆息して、周囲にきょろきょろと目を配る。

 高田だの安兵衛だのと言い合っている、火事装束風の男ふたりは、播磨の国は赤穂浅野家の江戸詰の家来たち。

 これについては注釈をしなければいけないが、後ほどお話する。

「たしかに。いま詰所で帳面を調べておるところですが、囲っておったものが、いまは半分ほどに減っておるかも…と、内所が言っておった…」

「ばかな」

「半分とは穏やかではないぞ」

「左様。ここには千人ほど収容されていると聞く。五百も逃げ出していたら、これまでにもっと、そこいら中で見つけているはず」

「いや…、おるぞおるぞ。それ、あれに見えるのもそうではないか」

「ああ。さっきから見て知っている。それ、あそこにも…」

「まことにハヤ…長い時をかけて少しずつ逃げ出したようで。面目次第もござらん」

 医者らしき総髪の男が、申し訳無さそうにうなだれた。

 そこに安兵衛が

「くどくは言いたくはないが、近頃ここを犬屋敷と思うて、米を泥棒しようと曲者がずいぶん入っていたというではないか。それを一体どのように用心していたのです?」

「いやまったく、うつけなことで汗顔の至り」

「ただ、実に巧妙でして、見張りも襲われてしまって、いままでよりたいへん悪質。おかげで見つけるのも、すっかり遅くなってしまった次第で」

「これは物盗りなどではござらん。賊はコレがたくさん逃げ出すのに、どこをどう壊せばよいかをわかっているふうでしてな。塀や壁を壊して忍び入るというのは、これまで聞いたことがない」

「では、逃したと言うのか?わざと」

「逃してなんとする」

「いやそればかりはなんとも…。ただ、要害を知らずに忍び込んで狼藉を働くものは、たいていは、連中に襲われるものなんですが、此度はそれも無く…」

「いずれにせよ、たまたま今日はあなたがたが立ち寄ってくださったおかげで、随分と助かりもうした」

 考えもよらない重い罰が、あとで待っていると覚悟して、医者も屋敷の警備をしていた当番の役人たちも気鬱になっている。

「ともかく手分けして、見まわりを続けましょう。」

「キリがありませんから、これからは、こいつを見つけても呼子でいちいち集まらなくてもいいでしょう。見つけたものがその場で処置をする。よろしいか」

「捕まえるときは高手小手にして、捕縛を心がけていただきたいですが、とっぷり暮れれば相手のほうが有利になります。やむを得ない場合は足だけでも」

 と、安兵衛。

「心得た…」

「では、おのおの燈火を持たれいっ」

「われわれも、もうしばらく付き合いましょう」

「かたじけない。よし、じゃ、参るとしようか…」

 集まった者達が、気重い足取りで、提灯や龕灯を持って思い思いの方向へ散る。

 何人かは先ほど、話し中に見つけた、遠くの人影に向かって走っていった。

 たったいま死んだ(?)、上唇の無い寝間着男は、手下たちによって御囲いのほうへズルズルと引きずられていく。

 首から木札がぶら下がっていて、そこには「米 上 馬 田中某 慶五」としてあるのが、提灯の灯りに浮かんだ…。

 それはこの男が、米沢藩上杉家の家来であることと、生年を示していた。

 

 

 

 

「やむなく…と言うは、どういういきさつだったのだ。郡兵衛」

 安兵衛という侍が、今度は砕けた呼び名で、あらためて高田郡兵衛に聴く。

 郡兵衛は、死んだ男が刺さっていた幹折れに、提灯の明かりを当てながら。

「どうだ。血がほとんど流れておらん。さっきのは取り憑かれてだいぶ長いぞ、安兵衛」

 と言って、まともに取り合わない。

 安兵衛は、中間の勝助を見やる。

 勝助は、自分に視線をもらってオドオドしながら、高田と同じあたりを「どれどれ」というふうに、とぼけづらで覗きこんでいる。

「さっきのは上杉家の者だ。向こうに納得の行くように、報告せんければいかんぞ。」

「言うな。お前、アレを未だに病人と思うてか。縛って塀の中に戻すのが、情けか」

「それは俺達の考えることではない。捕縛は決まり事ではないか」

「…馬鹿ッ正直にそんなことを言ってるのは、近頃お前くらいなものだ…」

「ん?」

「エヘン。もうよい」

 高田はこの安兵衛という友達と、言い争う気はさらさらなかった。

 考え方の違いがあるのは、わかっていることである。

「報告ならいくらでもするわいっ」

 

 塀の内側にいたのは、一千人あまりも収容されていると言われる、さっきと同じように様子がおかしくなった者達であった。

 犬などではなかった。  

 「祟りにあった(と、された)化身」の者達なのである。

 犬を保護するために、この半年ばかり前に大久保あたりに開設された、広大な敷地の犬小屋があったが、同じたてまえで作られた中野のここは、はなから犬のためのものではなかった。

 先述のように変異した者達の治療と観察、祈祷と扶助、場合によっては腑分け(御用解剖)を目的とした、御救い小屋も兼ねた総合隔離施設であったのだ。

 収容する長屋は、棟が武士と町民とに分けて建てられており、加えて治療の施設などがあって、ひとつの街のような規模になっていた。

 それを「犬小屋」と不自然なウソで公にしたのは、事件が深刻であったため、江戸庶民を脅やかさないよう取り繕ったからである。

 

 元禄の世では、医療に関心のあった将軍綱吉の庇護のもとに、怪現象を「病気のため」として隔離治療に励んだのだ。

 否、励もうとした。

 しかし成果は芳しくはなかった。

 そうしてこのところ、役人たちは治療のあてのないこの患者たちを、こまめにここまで運んでは、収容していた。


「見ろ。あそこにつったっておるのもそうであろう?」

「よしっ。それがしが引き受けたッ」

「斬るなよっ」

 それがいま、どれほどかは知れないが、一度に解き放たれてしまった始末なのである。

 

 

(つづく)

 

●<小説「怪異談 忠臣蔵」01にもどる。

小説「怪異談 忠臣蔵」03に進む。>●

++++++++++++++++++++

〜解説〜

 

空前のパロディ小説。

次第に人名や団体名が出てまいりまして、まったくでたらめな内容なので、関係各位に於かれましては、あるいは不愉快に思うようなアレコレが(特にこれから)出てまいります。

ほんと、ご容赦ください。

 

さて、御囲いが壊されてなんか逃げ出す際に、見回り役人の数がどれほどなのか、壊された箇所がどのくらいなのか、だいぶ曖昧でございます。

 

あと、これはスマホよりPC版パソコン画面で読んでいただいたほうが、読みやすいかもと思いました。(行間とか)

 

今後ともご愛読をよろしくお願いします。

 

もりい

 

 

| もりいくすお | - | comments(2) | trackbacks(0) |
コメント
安兵衛や郡兵衛の名が出て(実在する人とはかんけいないそうですがw)何となく盛り上がってまいりました。
しかし、これ、かなりの大長編になりそうですね。
| ゆらおに | 2019/10/15 12:42 AM |

おにさん
そぉ〜かもですかな。
最初は短編のつもりだったのですけれども。
(*´ω`*)テヘ
| もりいくすお | 2019/10/15 10:21 AM |

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