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小説「怪異談 忠臣蔵」06

小説

怪異談 忠臣蔵

〜ゾンビが出てくるやつ〜

 

この作品はフィクションです。文中に出てくる名称と、実在の個人名、団体名とは一切関係がありません。

本編には、暴力的なシーンが含まれてございます。
また、たいそう昔の設定なので、現代では不適切と思われる表現が含まれることもございます。
あらかじめご了承の上、ご覧くださいませ

 

(連載6)

 

 

 四 新宿騒動

 

「まったく。これでは御囲いの見回り役も、ただでは済むまいな」

 赤穂浅野の安兵衛と郡兵衛は、御囲いから抜け出たのろまについて夜詰めで帳簿を調べたり、壊された箇所を検証したり、逃げたのろまを探したり捕縛したりした。

 筋骨たくましいふたりの顔にも、さすがに疲労の色が見える。

 宿場の方から聞こえたけたたましい半鐘の音を聞いて、いま、それぞれの供人と、江戸府内に向かって歩いていた。

 空は摺る墨を流すかのごとく、泣き出しそうに陰々と雲が立ち込み、時折生暖かい風がどこからか流れてくる。

 まもなく内藤新宿である。

 四人連れが雑木林を抜けると、荒寺に着いた。

 ところが、丘の上から見える宿場の様子がチトおかしい。

 黒煙りが何本か立っており、ここまできなくさい匂いが漂ってきている。 

 火の手が上がっているようだが、逃げ惑う人の姿もなければ、右往左往する火消しの気配も無いのが遠くからでもなんとなく分かる。

「先刻から遠くに聞こえていた半鐘は、やはりあの宿場の失火であったか」

「しかし、いまはその音も無い」

「さては…」

 怪訝な顔をしながら、前へ進もうとしたとき、少し先の道端のこんもり茂ったヤブの中からガサガサという音。

 かがみこむひとりの、のろまだった。

 のろまは倒れている人間のお腹をやぶって、臓腑をひっぱりだして食べている。

 そこら中が血だらけで、すさまじい光景。

「あぁッ勝助ッ」

 歯の根も合わぬほどガタガタ震える新吉が叫んだ。

 食べられているのは、一足先に御囲いの事件のこと(塀が壊れてのろまが大勢逃げ出した旨)を、赤坂の浅野家屋敷に伝えるよう走らせた、郡兵衛の中間・勝助であった。

 少し年かさのこの男には、道中に用心が足りなかったのか、それとも提灯の灯りがのろまの目をいたずらに惹きつけたものか。

 もとよりこの男はすっかり怖気づいていたので、指図する相手を間違えたかなと、いまさら郡兵衛は悔やんだ。

 家来二人は息を呑んで立ち尽くしている。

 郡兵衛には、勝助を食べているほうの、のろまの風体になんとなく見覚えがあった。

 おそらく先刻に、御囲いをふらふらと覗きに来た、あの酔っ払った職人のひとりに違いない。

 あわれ、この男も御囲いを逃げ出したのろまにやられたのだろう。

 そもそも安兵衛たちが中野までわざわざやって来たのは、見回りで足を伸ばした内藤新宿の近辺で、御囲いの中にいるはずの、木札をぶら下げた寝間着ののろまを見つけたからだった。

 職人たちが度胸試しにやってきた時は、彼らも薄暗い森の中で、多くののろまとすれ違っていたはずであろう。

 しかし幸運にもそれに気づかず、無傷で御囲い周辺まで辿り着いていた。

 職人たちは、郡兵衛に声をかけられた際に留まっておりさえすれば、こんな哀れな姿にはなっていなかったかもしれない。

 また、中間勝助も、命を落とさずに済んだかもしれない。

 それにしても、ゆうべのうちに襲われて、たちまちこうして変異してしまうのだから、尋常ではない祟りの強さ、憑依の速さがうかがえる。

 なにより、目の前のありさまは、御囲いを抜けだしたのろまが、すでにここを通過していることを物語っていた。

「しまった…」

 郡兵衛は無念そうにそうつぶやくと、一刀抜く手も見せず職人の頭部を「エイッ」と一喝して、横一文字に切り払った。

 安兵衛が

「あ」

 と、小さく言った。

 眉毛あたりから上の部分が宙を舞い、頭が無くなったのろまが、バタリと勝助におっかぶさるように倒れる。

 横たわる勝助は、真っ赤になった目でこっちを見上げ、燃えてしまってツルばかりになってる提灯の棒を握ってか細く「あーうあーう」と言いながらユラユラと持ち上げている。

 おなかを破られているのに、無表情で平然としているようすは、もはや勝助とは認められない。

 だが郡兵衛の目には

「ドジなことで相済みません」「殺してくださいまし」

 …と言ってるようにかすかに映った。

 郡兵衛は持っている槍の穂先を、勝助の額に定めると

「覚悟いたせよ」

 と、小さく言って頭に突き立てた。

 

 

 

 

 勝助の髷ッ節(まげっぷし)には、託された書状が雑に巻い付けてあった。

 どのような経緯(いきさつ)で、腹を食い破られるにいたったかはわからないが、ともかくこの男はとっさの判断か、なにがあっても大事な書付が血で汚れてはいけないと、ここまで逃げながら、懐から取り出したに違いない。

「暗夜の礫は防ぎがたい。傷つきながらあっぱれのものだ」

 安兵衛が手を合わせる。

「我らが見つけたから良かったようなものを、大切な密書をこの様にさらしおって。不心得者め」

 郡兵衛はそう言って仏を諌めたが、書付を取り上げてから手を合わせるその姿には、深い憐憫の情があふれていた。

 

 

 

●<小説「怪異談 忠臣蔵」05はこちら

小説「怪異談 忠臣蔵」07はこちら>●

 

++++++++++++++++++++

〜解説〜

 

空前のパロディ小説。

 

更新はだいたい、土曜日とか日曜日です。

 

どうぞごひいきに!

 

 

もりい

| もりいくすお | - | comments(2) | trackbacks(0) |
コメント
さすが郡兵衛、スゴイ腕だ。
| ゆらおに | 2019/11/11 6:57 PM |

おにさん
もぉね、ルパン三世の斬鉄剣のイキオイっす。
| もりいくすお | 2019/11/11 7:05 PM |

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