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小説「怪異談 忠臣蔵」08

小説

怪異談 忠臣蔵

〜ゾンビが出てくるやつ〜

 

 

この作品はフィクションです。文中に出てくる名称と、実在の個人名、団体名とは一切関係がありません。

本編には、暴力的なシーンが含まれてございます。
また、たいそう昔の設定なので、現代では不適切と思われる表現が含まれることもございます。
あらかじめご了承の上、ご覧くださいませ
※お読みの際には「ゾンビ」のサウンドトラックをBGMにしていただくと、良いかもしれません。
 

 

(連載8)


 一軒だけ、玄関口を開けっぱなしにしている、大きな旅籠の前に通りかかった。
 表にまで、桶だの帳面だの、位牌まで放り出されていることから、これがあんのんとした事情で、開けっ放しなのではないことが、うかがい知れる。
 表間口は二間ほど。
 安兵衛が注意深く中を覗きこんでみる。郡兵衛が続く。
 広い前土間から通り庭には、外れた障子や表具、膳や茶碗などが散乱して奥へ続いている。
 そして、足もとと言わず壁と言わず、そこいら中に、まき散らしたような血糊が真新しい。
 さきほど安兵衛たちの呼びかけに、宿場の者が返答しなかったのは「いまさらなにを」と呆気にとられていたのか。
 人がほうぼうから集まる各宿場には、特に憑依者の出没の危険が考えられたため、中野も近いこともあって、幕府も内藤新宿の宿場には、いっそう重たく注意を喚起していた。
 しかし、なにぶん肝心な御囲いの正体が機密であったためか、警戒心が行き届いていなかったのかもしれない。
 またひところよりも、のろまの噂自体も、下火になっていたのも事実である。
 なにより、この宿場事態の歴史が浅く、ほんの数年前に開設されたばかりなので、いろいろ連絡も悪かった。
 そしてこの宿も完全に油断していたようだ。
 玄関にかかり
「御免ッ!頼むッ!」
 と声をかける安兵衛。
 しばらく薄暗い屋内を睨んでいたが、人気配を感じない閴寂閑(ひっそりかん)。
「誰もおらぬか」
 と、身を引こうとしたその時、人かネズミか、どこからかゴソゴソ、カサカサと音がし始める。
 それまで気付かなかったが、結界格子(帳場格子)の向こうに、生きた人間では考えられない恰好で(身体が腰のあたりから、ちょうなのように、不自然に曲がっている)ぶっ倒れていた、血みどろの同心が這いずって出てきた。
 返り血なのか、どこかを怪我をしているのかは、もうわからないほどに全身が血潮でビショビショである。
 もうひとり、中央の二階へ通じる階段の下から、その者の手下なのか店の者なのか、中年の小男が、これまた血だらけの顔(どうやら鼻が無い)をのぞかせると、おぼつかない足取りで安兵衛の方へ近寄ってくる。
 ふたりとも動き出すまで、道具と同化して、すっかり気配がなかった。
 そのようすは、どちらもすでに化けてしまって手遅れである。
 歩行がままならない同心のほうは、柱にしがみついて立ち上がろうとしている。
 その手はブルブルと異様に震えていた。
 よく見るとこの男、どうやら右の膝から下が、無い。
 中身がどこかに行って鞘ばかりになってしまった腰のものが、からげた下げ緒にぶら下がって、それが柱にあたっては、カランカランと音をたてている。
 ふたりともビックリしたような、あくびの途中のような不気味な顔つきのまま、安兵衛たちを睨みつけている。
「これは、何事である」
 安兵衛は重ねて声をかけてみるが、やはり返事は無い。
 同心は血だらけの手をヌルリと滑らせてよろけると、そのままそこら辺の道具をひっつかんだまま、ガシャンガラガラと大きな音を立ててまた倒れた。
「ぎゃああ!」
 通りを挟んで、向かい側からけたたましい叫び声がした。
 郡兵衛は安兵衛に目配せをすると、絶叫の出処と思しき小屋へ踵を返す。
 宿の安兵衛のほうは、ゆっくり屋内に進み入っていき、自分に向かってくる小男のほうを袈裟懸けに打ち据えようと槍を振り上げた。
 その時、この小男が同心のものと思われるちぎれた脚を「持っている」のが目に入って「あッ」と少しくのぼせたか、不眠の疲れが出たのか、そこいらへんに置いてあった何かに槍をぶつけてひっくり返し、大きな音を立てた。
 そもそも慣れてない七尺の槍ではあるが、使うのに屋内では具合がわるいことぐらい承知して、じゅうぶん周囲と間合いをとったつもりだった。
 が、ほんの一瞬の動揺に気が引っ張られて逸(はや)まり、まさかの失敗。
「ん」
 その隙を突いて、中年小男が安兵衛の左の二の腕に「あああううっ」と食らいついてきた。
 これがなかなかのチカラでくわえこんでいる。
 が、着物の下には鎖帷子(くさりかたびら)を着込んでいるので大事なく、安兵衛は恐れる気色もなく、相手に自分を噛ませたまま槍を小脇にかかえ
「チョコザイ千万な…」
 と、うっとおしそうに小さくつぶやくと、腰の大刀から手際よく小柄を抜いて、中年小男の耳の手前あたり(の、むきだし)の骨を突いて、鍵を開けるようにガリゴリと激しくかき回した。
 「メキッ」と音がすると、顎が外れたと見えて、噛んでいるチカラがゆるんだ。
 落ち着いて小柄の血を男の着物で拭うと、もとに収め、中年小男の髻をムンズと引っ掴んで、ちからいっぱい土間へ放り投げる。
 そこへようやくズルリッズルリと、同心が足元までやってきた。
 油断とは言え、むざむざ腕を噛まれて面目玉をすっかり踏みつぶされた安兵衛は、少し癇が高ぶっていたが、呼吸をいったん整えて気を落ち着かせると、槍をそばに立てかけて、倒れている二人の手と足を手際よく縛り上げた。 
 地中から引っ張りだされたミミズのように、ふたつの体がグリングリンと、土間でのたうち回って暴れる。
 暴れるたびに、どこからか血が吹き出しては、血が土間を汚していった。
 一段落と思う間もなく、奥の座敷につながる引き戸に寄りかかって、真っ赤な目をした新造が、いつからそこにいたのか、安兵衛のほうを見ながら、だらしなく突っ立っている。
 上目遣いだが、毛ほどの色気は無く、ただただ不気味。
 耳のあたりを食いちぎられて、せっかくの晴れ着が血で染まっている。
 不意にこちらへ来ようとしたが、足をもつれさせ、そのままドダーンと正面からまともに転んで、顔面を火鉢にしたたかにぶつけ、鼻からダラダラと滝のように血を出しながらゆっくりと顔を上げて、またこっちを見ている。
「ここはもう、駄目だな…」
 役人が入っていながら、また、若い住民までが逃げ遅れてこの有り様では、よっぽどの急襲にあったことが想像され、きっとこの宿の奥には、さらなる惨劇が展開されてるのかも、と思い巡らせると、安兵衛はゲンナリした。
 宿場の被害は思っていたより、でかい。




 
 民家に入った郡兵衛のほうは、首から木札を下げたのろまの襟髪をつかんで、ズルズル引きずりながら表に出てきた。
 のろまは、口元を血だらけにしながら、なにやら間抜けにモグモグやっている。
 郡兵衛はどぶ板を蹴散らすと、七寸ほどの溝にのろまを頭から叩き込んで、肩のあたりを踏んでグイグイとどぶの中に押し込み、身動きを取れなくしてから、再び屋内に入っていく。
 この男には、すっかりのろまになっている者に対して、まるで遠慮というものがなかった。
 家の中は商売道具やら食器やらがひっくりかえって、シッチャカメッチャカになっている。
 表の木戸を閉めきっていたので、はじめわからなかったが、建前や散乱している道具を見ると、茶店のようである。
「俺は赤穂浅野家のものだ。噛まれたものはその娘だけかっ」
 薄暗い家の隅で、家族らしい3人が固まってぶるぶる震えている。
 とっくに変化した十ばかりの娘が、周囲に襲いかかろうとしているが、母親がその頭をしっかりと力任せに抱きしめて、噛ませまいとしている。
「おおよしよし。わかったわかった」
 と、泣きはらした顔で、声をかけていた。
 郡兵衛は
「気の毒だが、こうしておいたほうがよい」
 そう言うと、抱えられてる上から娘に轡をはめ、母親からむしりとるように引き離し、そばの柱のほうへと引きずっていくと、持っていた縄でグルグルと縛り上げた。
 母親は、顔をくしゃくしゃにしたほえづらで「ああ」と嗚咽しながら、すがるように娘のほうに手を伸ばし、親父のほうは悲しみとも驚きともつかない顔で、あれよあれよという間に縛り上げられるわが子の様子を黙って見守っている。
 柱に括りつけられて身動きがとれなくなった娘は、猿轡を外したがっているのか、首を激しく振っている。
 犬の耳にノミでも入って、首を振っているようすに似ていた。
「不憫だが、医者が来るまでこれをほどいてはならん」
 医者、と言ったのは、いささかでも家族に希望をもたせる、せめてもの方便であった。
 情け容赦無い郡兵衛にしては、精いっぱいの配慮。
 それから奥を覗き、開いていた裏木戸を締めて戻ってくると
「あらましを申せ」
 と、顎でしゃくって外のほうを指し示した。
「へ?」
「宿場になにがあったのだ」
「あ…ゆうべ「のろまが出た」てんで、どっからか声があがって。でも外の様子をうかがっても、どうということも無さそうで」
「それで用心しなかったのか」
「そんなことちょくちょくあるもんで、慣れっこだったんでがす。誰かがすぐやっつけちまうもんで」
「それで」
「するとどんどん騒ぎが大きくなってって、なんだかいつもと違うなとは思ってやした」
「いつだってぼんやりしてるんだよっ。この人はっ!」
 女房が金切り声をあげた。
「なにしろ真ン前のお宿も慌ててなかったもんで…。半鐘が聞こえてきたんで、とにかく店はなんとなく閉めまして」
「あたしゃさんざん戸締まりのことを言ったんですよっ!」
「起きやがれ。裏はおめえが締めたとそう言ったじゃねえか」
「言わないよ!」
「…すまねえ…」
「ああ。それでどうしたのだ」
「あっしがハバカリから戻ると、さっきのが店にいて…襲いかかってきたんです…」
 母親が縛られた娘に擦り寄って、頭を撫でる。
 娘の目付きは、もはや親を見る眼差しではない。
 郡兵衛は、食べごろをとうに過ぎた、死んだ鯉の目玉を思い起こしていた。
 それでも母親は泣き声で
「どうか娘のために、まじないをしては下さいませんか。あたしはどうなっても…」
 ここで郡兵衛は初めて、母親が手に手ぬぐいを巻いているのがわかった。
 ドブに封じ込めたのろまに食いつかれて叫んだのは、母親のほうだったようだ。
 二度にわたって戸締まりをうっかりした親父のドジで、一家は途方も無い不幸に見舞われた。
 母親もそう長くはないだろう。

 


 

 

「だんなさまっ!おっお出ましだぁ!」

 外で待っていた中間の新吉が、突棒を取りすがるように抱え込み、真っ青になってオタオタしている。

 

 

●<小説「怪異談 忠臣蔵」07はこちら

小説「怪異談 忠臣蔵」09はこちら>●

 



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〜解説〜

 

空前のパロディ小説。

23日は著者のお誕生日ということで、「餅まき」気分でボリュウミーにいたしましてございます。

安兵衛と郡兵衛のバディは、映画「ゾンビ」('78)の、ロジャーと、ピーターでございます。

お読みの際にはサウンドトラックをBGMにしていただくと、良いかもしれません。
お聴きの曲は、ダリオ・アルジェントじゃないほう版でございます。
そして、未掲載(ボツにした)挿絵がこちら。
更新はだいたい、土曜日とか日曜日です。

 

どうぞごひいきに!

 

 


もりい

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