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小説「怪異談 忠臣蔵」10

小説

怪異談 忠臣蔵

〜ゾンビが出てくるやつ〜

 

 

この作品はフィクションです。文中に出てくる名称と、実在の個人名、団体名とは一切関係がありません。

本編には、暴力的なシーンが含まれてございます。
また、たいそう昔の設定なので、現代では不適切と思われる表現が含まれることもございます。
あらかじめご了承の上、ご覧くださいませ
※お読みの際には「死霊のえじき」のサウンドトラックをBGMにしてください(53min18s分強経過したあたりからでもいいかも)

 

※本文中の「のろま」はゾンビのことです。

 

+++++++++++++++++++

 

 

 ふたりが音のするほうに向き直るとまもなく、建物の角から馬に乗って槍を抱えた武士と、お供をして走ってくる六尺棒や天秤棒、さすまたを小脇にかかえて鉢巻をした男衆(おとこし)数名が派手に飛び出してきた。

 火の付いた松明を持っているものも何人かいる。
「こっちにウヨウヨいやがったーっ!」
 相当数をこなしてきているのか、息は多少切らしてはいるが、捕り方たちは手際よく器用に棒を扱って、のろまをひっくり返させていた。
 のろまは松明の火におののいているようで、それが付け入る隙となっている。
 大立ち回りとなった四ツ辻は、とたんににぎやかになった。
 馬上の男がふたりの装束を見て、すぐに素性を心得、手綱を掻い繰りながら声をかけてきた。
「おおっ赤穂浅野家の方とお見受けいたすっ。これは心強い。拙者ことは、内藤家物頭、磯部又五郎ともうします。馬上より御免こうむります。お怪我は!?」
「大事ござらん。拙者は播州赤穂浅野家家来、堀部安兵衛と申しまするもの。今しがた、たまたま宿場に参り、このありさまに驚いております。これから加勢も来ましょうほどに。まずは仔細をお聞かせくだされっ」
 さて、未明に大量ののろまがこの宿場を襲ったようで、一時は騒動になったが、みな閉じまりをして家内に引きこもり、自警団のようなものがすぐに結成されたという。
 ほどなく代官所からも応援が駆けつけると、お互いが助けあってひとりずつ患者の捕縛を頑張っていたが、要領を得ず、取り捕まえてるそばから噛まれるものがいたり、祟りを怖がって及び腰になるものがいて、その者もまた襲われ、といった具合でいっこうに、はかがいかなかった。
 そうして、みるみるとのろまがあちこちに増えていったのだという。
 のろまの群れは、楯突くように襲い掛かってくる手合と、火の手や捕り物から逃れるようにウロウロするものとに別れたらしい。
 安兵衛たちが出会ったのは、火に追い立てられてきた後者のようである。
 郡兵衛は、馬上の男とやりとりをする安兵衛の様子をうかがいながら、事情を聞くより、退治をすればいいのにと苛立ちながら、寄ってくるのろまを蹴倒し続ける。
 いっぽうで、周囲ではもうのろまをていねいに捕縛しようとしているものは、ほとんどいなかった。
 中でも捕り方に混じってのろまに向かってなにやら「くたばりぞこない!」「ここまでおいで甘酒進上!」などと口汚くののしり遮二無二片っ端から薪雑把で張り倒し、頭を叩き割って回っている、乱暴な連中が目立っていた。
 宿場の侠客や、ならずものが意外な奮闘を見せているのだ。
 のろまよりも、とりつかれていない連中のほうが、よっぽど異常に見える。
「無法な奴があるものだ。これ!手荒な真似をいたすな!かならず蹴って倒すのだ。」
 誰も安兵衛の呼びかけに従わない。
 引きつった笑顔でカラカラと笑いながら
「冗談言っちゃいけねえやっ」
「まっぴら御免をこうむりやすぜお役人様。こっちだって生命が惜しいや!」
 見るからに悪相の、端折った尻に彫り物のある男は、一人ののろまの背後に回ると、そののろまの懐に手を突っ込んで、胴巻きのようなものを引っ張りだし、中身を簡単に数えてそれを自分の懐に入れると
「チェッいつもシケていやがるっ。ええい、くたばれ喜三郎!仕方がねえや!おめえに貸した一両二分は負けといてやらあ!」
 そう怒鳴りたて、力任せに友達?の頭を薪雑把で張り飛ばした。
 現場の雰囲気に飲まれたのか、郡兵衛の鼻息はいっそう荒くなっている。
「やるぞっ!いいなっ!」
 そう安兵衛に言うと返事を待たずに
「やっ」
 と叫んで一番近くののろまに向かって槍を突き出した。
 安兵衛も、もはや進退ここに極まったと気合が変わり、「エエままよ」かくなるうえはと、赤鞘から腰の長刀をギラリと引き抜いた。
 さて、「やる」と決めれば堀内流の達人のこの男、腕に狂いが無い。
 前後左右から襲いかかってくるのを真っ向ナシ割り唐竹割り、袈裟斬り、胴切り、車切り。
 当たるを幸いバッタバッタと斬り倒し、あっという間にのろまたちは、安兵衛の刀の錆となった…かに、見えたが、安兵衛に倒された者達は足や腰を折られて、立てなくはなっているものの、皆地べたに這いつくばってうごめいている。
 安兵衛はあくまで、自分の手では始末しなかった。
 刃を返してみな峰打ちにしたのだ。
 周囲の大騒ぎも聞こえないかのように関せず、とにかく当人の帯や腰紐、そこいらへんの長いもので、倒した連中をご丁寧に縛って回った。




 
 乱闘大騒ぎの中、すっかり興奮して次の相手を!と見回す郡兵衛の目に見覚えのある顔が飛び込んできた。
 先ほどの茶店の娘である。
 口の周りを血だらけにして、相変わらず死んだサカナのような顔つきで、こちらにフラフラとやってくる。
 「むすめっ…」
 声をかけてみるが応えは無く、たどたどしい足取りでどんどんと近寄ってくる。
 郡兵衛は躊躇して娘に槍を振るわない。
 ここはまた縄で縛って両親のもとへ戻すか?などと、柄にもなく考えてしまった。
 腰に手をやると、すでに縄は切れていた。
 そのうちに娘は目の前まで迫って、急に形相を般若のように変えると、郡兵衛にすごい力で掴みかかってきた。
「あぶない!」
 そこへタスキがけ尻端折りで、五分月代の浪人風の男が割って入り、娘を引き離すと一刀のもとにその細首を切り飛ばした。
 我に返る郡兵衛
「はっ、お見事」
「なんの」
 言いながら男は手際よく、落ちた娘の脳天に切っ先を立てていた。
 娘の頭部(こうべ)は、大人しそうな、やすらかな死に顔になっている。
「南無阿弥陀仏。さあこんどはおれを斬ってくれ…」
「えっ?」
 自分を助けた見知らぬ男は、刀を鞘に収めると、腰から抜いて脇に置き、出し抜けにとんでもないことを言い出した。
 郡兵衛に背を向けて両膝をつき、襟を引っ張り、差し伸ばした首に手刀で斬る素振りをしてみせる。
 よく見ればこの男、顔色が悪く、額に脂汗がビッシリと湧いている。
「なんと?」
「それがし、元・薩州は島津の家来、下坂十太夫ともうします。仔細あって、浪人を、しておりますが…」
 息が上がって少しうつろになっているその浪人、下坂とやら言う男が、左手に当てた血だらけの鼻紙を取りさると、痛々しく手のひらの小指球が食いちぎられていた。
「これまででござる。さっ、願おう」
 浪人はあらためて 頭を前へつきだした。
「残された子どもたち、子どもたちをどうかお願い致します。小雪と、正太郎と申します。この先の旅籠…武蔵屋におりまする」
 そう言ったつもりだったが、ほとんどろれつが回らなくなっている。
「なんと申した!?子供がなんといたしたのじゃ!」
「はや…く…」
 と言いながら、郡兵衛を見る男の両眼はもう、血走ってきていた。
 身体もブルブルと震えだしている。
 郡兵衛はまたひるんだ。
 こんどの相手は命の恩人である。
「ええい!しっかりいたせ!」
 男の肩を掴み、揺さぶりながら、声をかけるが手遅れなのはわかっている。
 しかしこの男は「まだ」人間なのだ。
 浪人は首を左右に振って、イヤイヤをするそぶりをみせると、突然に郡兵衛の腕に掴みかかり食い付こうとした。
 郡兵衛ははっとして一歩下がると、思わずそのまま袈裟懸けに切り倒した。
「ウッ!…かたじけない…」
 なんと手遅れにならないうちに「まだ人間」の浪人は、自分を斬らせるためにわざと、郡兵衛に襲いかかったのだ。
「しまった!おい!こどもがどうしたのじゃ!」
 喧騒の中で立ち尽くした郡兵衛だったが、吹き出す血潮にまみれながらすでに物を言わなくなった男を見とると、「戻ってこないように」無念な心持ちで、とどめを刺した。
 
 宿場に応援が駆けつけたのは、安兵衛たちの到着から一時ほど経ってからだった。
 その時にはすでにもう、宿場をうろつくのろまはほとんどいなくなっており、通りは屍山血河の修羅場と化していた。
 心配の火事のほうも、数件焼けたところで、シトシトと降ってきた小雨の恵みも幸いして、奇跡的に鎮火に及んだ。
 火事の何件かは、のろまが侠客たちに、着ている着物に火をつけられ、そのまま燃える身体でうろついたのが原因だったという。
 
 遠くから時折鉄砲を撃つ音がする中、郡兵衛はひとり、今朝立ち寄った茶店に戻って中を覗いてみた。
 薄暗い屋内で、梁からぶらさがった縄(おそらく娘をくくりつけていた)に親父が首をくくっている。
 親父の目は赤く、ぱっちりと開いてこっちを見ている。

 そばには血だらけの鎌とともに、娘の母親の死骸が横たわっていた。
 あれからなにがあったのだろう。
 あれほど「取るな」と言った娘の猿轡を外してしまい、娘は早速両親を襲ったのか。
 狼狽した親父は郡兵衛を頼って、娘の手を取り、表に連れだそうとして、これもまた噛まれ、逃げられた。
 フラフラ出て行く娘を絶望の中で見送ると、ともかく女房を送ってやったあとで、自分も首をくくって死のうとして、死にきれなかった…と、そんなところだろうか。
 親父は郡兵衛に気づくと、おねだりするように腕を動かし、そのたびにぶら下がった体が振り子のように揺れた。
「まだふたりに追いつくだろう。成仏いたせよ。」
 郡兵衛は、屋内に入り、親父の額に槍の切っ先を当てた。
 郡兵衛は騒動のあった四辻に引き返し、家に返してやろうと娘の亡骸を探したが、もう見つからなかった。
 収穫した大根のように重ねて、大八車で運ばれるのろまの遺体(中には動いているのもいる)を見ながら、郡兵衛は途方に暮れるのだった。
「斬り倒したこの連中のいずれにも、親兄弟親戚、知己があったであろうに」
 安兵衛はそう言うと、屠蘇酒の入った升を、ひとくちグイとやって、郡兵衛に渡そうとする。
 これまで活躍の無かった、中間の新吉がどこかからもらってきた酒だ。
「情け容赦が足らなんだかな…」
 郡兵衛は、酒を受け取らずにそう言うと、大八車に手を合わせ、唱名念仏を唱えた。
 少し胸が悪くなっていた。
 
 この宿場の一件は完全な鎮圧や検死、検分に一昼夜かかったものだった。

 

◯<いっと最初はこちら。

++++++++++++++++++++

〜解説〜

 

空前のパロディ小説。

 

じつはこのあとに、先に使いに走らせた手下の善三郎のいきさつが用意されておりましたが、次回はそれをカットいたします。

新宿から逃げてくる人に混じりながら、善三郎が千駄ヶ谷あたりまで来たところで江戸城警備から駆けつけた鉄砲隊と出くわします。(彼らの詰め所が内藤新宿にある)

そこで、鉄砲隊と仲良くしている、米沢の三十匁もある鉄砲を軽々と担いだ、清水一学が登場する。…はずでした。
本文にある鉄砲の音は、そこと連動するのです。
早く忠臣蔵的な展開に戻したいと思い、そのシークエンスをカットするものであります。
 

というわけで、いよいよ次回

刃傷!松之大廊下
ご期待ください!
更新はだいたい、土曜日とか日曜日です。

 

どうぞごひいきに!

 

p.s.

通りかかった渋谷の映画館で、あたしがゾンビ好きになるキッカケの1978年の「ゾンビ」やってましたよ。

どういう風の吹き回しなのか。
日本オリジナル版を作った?みたいな記事を読んだけど、ソレかなぁ。


もりい

| もりいくすお | - | comments(2) | trackbacks(0) |
コメント
期待しない、訳じゃないけど、来週は忙しいでしょ。休載してもいいよ!
| ゆらおに | 2019/12/07 5:31 PM |

おにさん
いやもう、荒唐無稽すぎてスミマセン。
生憎、書き溜めてあるので(笑)。
(*´ω`*)
| もりいくすお | 2019/12/07 8:08 PM |

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