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小説「怪異談 忠臣蔵」11

小説

怪異談 忠臣蔵

〜ゾンビが出てくるやつ〜
(連載11)
 

 

この作品はフィクションです。文中に出てくる名称と、実在の個人名、団体名とは一切関係がありません。

本編には、暴力的なシーンが含まれてございます。
また、たいそう昔の設定なので、現代では不適切と思われる表現が含まれることもございます。
あらかじめご了承の上、ご覧くださいませ
※お読みの際には「28週後…」のサウンドトラックをBGMにしてください
※本文中の「のろま」とはゾンビのことです。

 

 

+++++++++++++++++++

 

 

 

(連載11)

 

 六 刃傷!松之大廊下

 

 元禄十四年。

 その年は、皆既日食で始まった。

 天心変異を思わせる、不吉千万な新年の幕開けである。

 

 東北が起こりだと言われているのろまの被害が、特に米沢上杉家の、桜田は江戸上屋敷で甚大だと、どこからか噂が立っていた。

 飢えから動物(やまい狗)の死肉を食べた憑依者が、ある日上杉家の用人に食いついたものと伝えられている。

 いま容態が手重いのは、よりによって当主の綱憲であるとも言う。

 彼が平臥なって(ばしなって)床についているらしいところまでは、関係者の耳に入っていたが、あらゆる真相が、はっきりしなかった。

 

 いっぽう、幕閣には頭痛の種があった。

 上杉綱憲の実父である、吉良上野介にも憑依が疑われていたことだ。

 上野介は、養子に出した実子に会いに、度々上杉家上屋敷に赴いている。
 鎌倉時代より代々、将軍家や天皇家に随順してきた吉良家。

 その末裔・上野介義央(よしひさ)もまた、有識故実に通じて古風万端に慣れていた。

 これまで朝廷と幕府をつなぐ重要な連絡役を、幾度も完璧に務めあげ、儀式典礼指導の仕事ぶりは、老齢になった今も、誰からも認められている。

 この春の江戸城における恒例行事においてもまた、幕府はこの老人を頼りにしており、決して粗相があってほしくなかった。

 その吉良上野介に、呪いの噂がたったのだ。

 言われてみれば、どこかしら様子がおかしいようにも見える上野介に、真相を聞こうと老中方が尋ねると

「根も葉もない噂でございます。私達もすっかり迷惑しております。いささかも心配はございません」

 と、老人は笑って答えたものだった。

 

 この年三月に、京都の朝廷から、東山天皇の勅使や、霊元上皇の院使を江戸城に迎えるその行事というのは、恒例のことであった。

 特にこの年は、将軍・徳川綱吉の生母・桂昌院に従一位という、女性にはこれまでに無く高い御位(みくらい)を賜る勅命がかかった特別に重たいものであり、使者の接待にはどうしても古法法式のすべてに練達した、高家筆頭の上野介の指南が必要だった。

 念には念を入れて、勅使や院使の饗応役には、その経験がある家々から選ばれた。

 すなわち伊予国吉田の城主・伊達左京亮と、のろま警備の腕達者でもある播州赤穂の城主・浅野内匠頭である。

 ただ、吉田伊達家としては饗応の経験が幾度かはあるものの、左京亮はこの役目は初体験で、しかも年も若く、たよりなかった。

 そういうわけで内匠頭はあちこちに気を配る必要があった。

 自分の体調も含めて。

 

 三月十四日。

 これまで三日に及んだ陪観、饗宴は無事に予定どおり進み、あと一日何事も無く済めば万事大成功である。

 そんな折、その朝早く、内匠頭の手には蘭学医からの、吉良の体調に関する報告書が舞い込んでいた。

「亥の刻ばかり 吉良様 御手足ひえ、御脈にむら。たちまち撹乱になやむ。心身覚えず。夜を通じて辛苦せり」

 内匠頭の頭には、日頃から聞いていた上杉家内ののろまの噂と、今朝の吉良の様態の因果関係が瞬く間につながった。

 実は内匠頭にとって、吉良老人に憑依の疑いがあると知ったのは、この時が初めてだった。

 自分が饗応役に選出されたわけも、これで今ようやくわかった。

 若い時に一度この大役を果たしているのにもかかわらず、生涯に二度もこんな面倒な役が回ってくるなどとは、おかしな事だと思ってはいたのである。

 そんな重要な件を伏せて、儀式を強行する老中方には腹も立ったが、いまはそれどころではない。

 責任感の強い内匠頭は、式典にさわりがあったり、朝廷の使者に万が一のことがあってはならんと、まずはとにかく吉良を探そうと考えた。

 

「吉良殿!吉良殿はいずこ!」

 

 摺る墨を流したかのごとく、陰々と立ちこんだ曇天の江戸城内は、雨戸が閉まってたいそう薄暗かった。

 春なのに響き渡る万雷が、内匠頭の不安をいっそうに掻き立てている。

 「ぎゃっ」という叫び声を聞いて、内匠頭が六十六間・大広間の四の間、またの名を松之大廊下まで駆けつけてみると、とたんに異様な光景が目に飛び込んできた。

 直垂姿の諸大名五〜六人、および高家衆と関係者二〜三人が遠巻きにあたふたと、とっくみ合ってるふたりの人物の様子をうかがってる。

 狩野常信が筆を振るった、極彩色豊かな松の絵のふすまにもたれかかって、じゃれついているようにも見えるふたり。

 何人かが

「内匠殿!こっこれを!」

 とブルブル震える手で指し示す。

 足にまとわりつく長袴をうっとおしそうに脇から手を突っ込んで送り、早足でふたりに近寄る内匠頭には、次第にそれが老人が茶坊主に襲いかかっている様子だとわかった。

「さては!」

 茶坊主に襲いかかっているのは誰あろう吉良上野介であった。

 教養の高い文化人には、あるまじき戯れである。

 その病(やみ)ほうけた顔には、薄暗さの中でも、間違いなく変異が認められた。

 駆け寄る内匠頭を気取った老人は、茶坊主を放り出すと迎え討つように身を翻し、存外な素早い身のこなしで飛びかかってきた。

 内匠頭には見慣れた憑依者の動きであったが、咄嗟にたくさんのことが一度に頭の中をかすめ、対応をためらわせる。

 江戸城内で鯉口三寸抜けば、赤穂浅野家は断絶になってしまうという定法がある…。

 しかもこの松之大廊下は式を行う白書院に通じる大事な場所柄…。 

 とは言え、何に変えても、勅使や院使の身に危険が及んではいけない。

 よし。もう正気に戻ることはない年寄りには即刻、浮かんでもらうしか無い。

 自分や家のことは二の次である。

 そんな考えを巡らせる内匠頭の隙をついて、上野介はクワッと内匠頭の手首に食いついた。

「あれ捕らえよ!」

 と声をかぎりに叫びながら、反射的に腰の小刀を抜き打ちに、相手の頭目掛けて切り込んだ内匠頭。

 見事に老人の額を切りつけたが、小刀は烏帽子の竹輪に「ガチッ!」と当たり、頭を割ることはできず、タラタラっと破血するだけだった。

 慌てて仕損じた。

「頭をっ」

 内匠頭は周囲の協力を仰いだつもりだったが、老人の奇行にすっかり打ち驚いていたのと、内匠頭が小刀を抜いたことにさらに驚いて、駆けつけた同僚の伊達左京亮すら固唾を呑んで、手も足も出ない。

 ふらふらっとする老人の頭を狙って、二の太刀をふるおうとしたその一刹那、何者かが内匠頭をグッと後ろから羽交い締めにする。

 「捕らえよ」の声に駆けつけた、怪力無双の梶川与惣兵衛、御台様のご用人である。

 自由が効かなくなったおかげで、振り下ろした小刀は軽く老人の背中を切りつけただけだった。 

 事態が飲み込めない梶川は、ともかく抜刀している方を取り押さえるべきと力任せに内匠頭をねじ伏せる。

「殿中でござる!殿中でござりまするぞ浅野様!ご乱心召されたかっ!」

「ええい離せ!あと一太刀!」

 ふたりの高家が、あたふたと背中を打たれてころがった老人を抱えあげる。

 

 

 

 

 斬られた衝撃のせいなのか、老人の動作は鈍り、先程のような襲撃を周囲に図ろうとしない。

 老人は二太刀も浴びせられて、キョトンとしている。

 すっかり立ち尽くしていた伊達左京亮は、このときやっと我に返り、老人を詰め所へ連れ去ろうとする高家衆に小声で

「吉良様ご大病。血には触らぬよう」

 っと、ソット声をかけた。

 

「刃傷でござるぞーっ」

「かたがたお鎮まりなされい!」

 次第に城内に騒ぎがひろがりはじめている。

 

「南無三宝しなしたり。たしかに噛まれた。症候が出る前に自分を隔離せねば」

 溜まりの場から、御目付が現場に駆けつけると、内匠頭はすかさず

「この上の狼藉は致さぬ。それがしと吉良殿を、この城からどこかへ遠くへ一刻も早くっ!」

 と、畳の上におさえつけられているまま、声を上げた。

 ともかく周囲はわけがわからずポカンとして、内匠頭がなにやら遺恨を以って、吉良と決闘をしていると勘違いした者さえいた。

 

 内匠頭が蘇鉄の間で、後命が下るのを待っているとき、伊達左京亮は別の部屋で、老中とその後の取り計らいについて話し合いながら、内匠頭の言葉を思い出していた。

「それがしを、どこか遠くへ」

 病変の恐ろしさを知っている、数少ない係としては、ここでどう立ち回るか思案のしどころである。

 内匠頭を、鉄砲洲にある彼の屋敷まで護送するには遠かろうと一瞬、汐留の自分の本家筋の上屋敷を差し出そうかとも考えた。

 しかし、ご本家に面倒が及んではいかんと思いなおし、芝は愛宕下の分家・田村右京太夫邸にまずは避難してはと老中方を説き立てた。

 城からも離れて都合も良い。

 非常の際にろくになにもすることができなかった左京亮としては、身内の屋敷を差し出すことで、一矢報いようと思惟したのだった。

 この提案はすぐに受け入れられ都合よく登城していた奏者番・田村当人の同意も得て、内匠頭に縁故がないことが確認されると、瞬く間に護送の手配が整った。

 じゅうぶんな詮議もないまま、半ば無理矢理に内匠頭を、場外に出そうとする始末柄に対して、事情がよく把握できていない目付けたちは、成り行きにたいそう不審を感じた。

 同時に、ともかく自分を退城させてほしいと訴え続ける内匠頭を、ただただ「潔い」と思ったものだった。

 内匠頭の気持ちは逸っていた。

 もともと憑依されたと疑っていた自分が、こんどはしっかり噛みつかれた。

 駕籠の中で腕をめくると、老人の弱い噛み跡からジワジワと血がにじみでて、着衣を汚している。

 万事は休した。

 

「ともかく上杉家で病気を隠し、放っておくからこの度のようなことになったのだ」

 と、歯噛みする。

 

●<小説「怪異談 忠臣蔵」10はこちら

小説「怪異談 忠臣蔵」12はこちら>●

 

◯< いっと最初はこちら。

++++++++++++++++++++

〜解説〜

 

ものがたりはいよいよここからが面白くなるわけでございますが!

なんとなんと!

お時間がいっぱいいっぱいでございます。

(なんつって)

 

空前のパロディ小説。

 

松之大廊下では、内匠頭がゾンビになって暴れるのじゃないかなんて不届きなことをご推察なすった方もおられるんではないでしょうか。笑

 

つまりですね、このご時世、吉良さんに対して「死んでかまわない」と思わせるには、もうゾンビになっていただくしか無いんですね。

これなら、くちさがない人でもテロとかなんとか言ってくれますまい。

 

で、最初挿絵には吉良さんのお顔はもっとお化けみたいに描いてたんですが。「半のろま」みたいな状態なのと、あとは経緯も評しまして、伝えられる「美男」系で処理させていただいております。

 

よろしくお願いします。

 

あと、余談ですが桂昌院の従一位がどうのこうのという話と、この勅使い院使を迎えるイベントは、あんまりダイレクトな因果関係はないそうですな。

モーそういういい加減な感じは、今後もたいへんよく出てまいります。お許しを。

更新はだいたい、土曜日とか日曜日です。

 

どうぞごひいきに!

 

 


もりい

| もりいくすお | - | comments(2) | - |
コメント
や、これは意外な展開。
刃傷の挿絵は、本格忠臣蔵でもそのまま使えそうです。
| ゆらおに | 2019/12/16 7:24 PM |

おにさん
いやもう「意外な展開」はモー、冥利に尽きてしまいます!
さしえのご過褒もおそれいります〜。
(^O^)
あたしには、吉良はダメ。長矩正しい。四十七士強くてかっこいい…が、マストなのであります。
| もりいくすお | 2019/12/16 7:36 PM |

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