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小説「怪異談 忠臣蔵」12

小説

怪異談 忠臣蔵

〜ゾンビが出てくるやつ〜
(連載12)
 

 

この作品はフィクションです。文中に出てくる名称と、実在の個人名、団体名とは一切関係がありません。

本編には、暴力的なシーンが含まれてございます。
また、たいそう昔の設定なので、現代では不適切と思われる表現が含まれることもございます。
あらかじめご了承の上、ご覧くださいませ

※文中の「のろまとは、ゾンビのことでございます。

 

++++++++++++++++++++




 いっぽうそのころ下馬先で、事件を知った赤穂浅野家の腕前たしかな家臣や家来たちは、思うように細かな情報がつかめず、戦々恐々としていた。

 その中に堀部安兵衛もいた。

 周囲の同輩が右往左往している中で、ジット目を閉じて別命を待っていたが、胸の内はじれこんでいた。

 ささやかな目撃談から「のろま」が大事な行事の最中に、まぎれこんだらしいことだけはつかめていた。

 こうなれば出番のはずである。

 いまかいまかと待っているが、なかなかお達しが出ない。 

 一刻も早く儀式祭典を打ち切り、その後の憑依者への適切な対応が望まれるところであり、ウズウズしていた彼らに飛び込んできた沙汰は

「赤穂浅野家の担当する、伝奏屋敷の速やかな引き払い」

 であった。

 聞いた浅野の家来たちは、なるほど各担当部署が、とりいそぎ解散を手分けするのだなと思った。

 同時に式典の取りやめ。

 大納得で和田倉門の東にある、勅院使の宿泊所であった屋敷の引き払いに走った、赤穂浅野の家来たち。

 屋敷ではじつに家臣の手際がよく、屏風幔幕一切を速やかにまとめることができた。

 安兵衛も二日ほど前に当番で詰めていたので、勝手がよくわかっており、たいそうよく働いたものである。

 が、まもなく代わりにやってきた戸田家の家臣家来たちを見て「はてな」と思った。

 話が噛み合わない。

 あとから駆けつけた仲間の話では、戸田家は新任であり、自分たち赤穂浅野だけが排除されて、儀式は続行されるとはっきり知らされたと言う。

「なんと!?」

 松之大廊下での出来事が、のろま退治を仕損じたのではなく、我が君主による、いたずらな刃傷沙汰ということになってやしまいか?  

 だとすると、いずくかへお預けになった殿の進退は!?

 藩士の何人かは城に立ち戻り、憤慨を持って抗議に及んだが、将軍家の沙汰とあってはごまめの歯ぎしり。

 どうすることもできない。

 そのころはとっくに彼らの主君・内匠頭は駕籠一丁に乗せられて、愛宕下の田村右京太夫の上屋敷に到着していた。

 安兵衛は諸道具を荷造り、もやってある舟への積み込みを手伝っていたところだったが、事情を聞くと手を止めて

「しまッた!」

 と、叫ぶや飛鳥(ひちょう)のごとく屋敷を飛び出した。

「待て!安兵衛どこへ行く!」

 尻目もかけず、虎の勢いで風を起こさんばかりに飛んで行く。

 目指すは芝愛宕下。
 

 

 浪人していた安兵衛が、今こうしてあるのも、内匠頭が召し抱えてくれたおかげである。

 義父・堀部弥兵衛が、安兵衛の高田の馬場における活躍に惚れ込み、婿養子にとの再三の申し出に安兵衛は気が進まず

「婿の儀は承知いたしても、他姓は名乗れぬ」

 と難題をふっかけて断ろうとしたが、相談を持ちかけられた内匠頭は、旧姓のままでの婿入りを快諾。

 年に似合わぬ弥兵衛の粘りも驚いたが、この浅野内匠頭という殿様のやわらかい物腰にも驚いた。

 安兵衛は、それまで家賃をためていた長屋への支払いも済ませてもらった上、御前にじきじきにまかり出てお目通りがかなった際、主従三世の杯をたまわった。

 浅野家の主従かための「月の組盃(くみさかずき)」という、その月の数だけ何合も頂戴しないといけないという儀式では見事、安兵衛は十二杯を、大鯨が百川を吸うようにたいらげて殿様をおおいに喜ばせ

「安兵衛、見事であるぞ」

 と、お褒めの言葉を賜る。

 ところがお城づとめをしたことがなかった安兵衛は、行儀悪く御前で寝入ってしまった。

 同席していた弥兵衛は、うろたえて安兵衛を起こそうとしたが白河夜船。いっこうに気が付かない。

 内匠頭は、黒縮緬の羽織を、寝ている安兵衛にかけてやると奥へ入っていった。

「一同のもの、下がってよろしかろう」

 そう言われても、弥兵衛だけはそわそわして、相変わらず大いびきの安兵衛を揺り動かしている。

 内匠頭はふすまのこちらから様子をうかがっていたが、ソッと鯉口三寸をくつろげてから「パチン!」と鍔を鳴らすと、安兵衛はガバリと起きて、ふすまのほうをにらみ身構えた。

 内匠頭はこの時、安兵衛を

 「まことの武士…」

 と感心したものだった。

 安兵衛は周囲のようすに気づき、自分の無礼をとがめもせず、羽織まで下し置かれるとはもったいなし…と涙して内匠頭に感激した。

 これが七年前の出来事である。

 

 



 搬送中すでに、内匠頭の意識は朦朧を極めていた。

 自分が起きているのか、眠っているのかすら、はっきりしない。

 間もなく内匠頭に、当日切腹の決定が告げられた。

 内匠頭は憑依に対する処置としても、江戸城内で起こった事件の始末としても、切腹は間違っていない措置…。

 …と、そうは思ったが、どこかで隔離されているはずの、高家の吉良上野介は今頃どうなっているのだろう。

 容態と幕府の仕方が気になり、また自分がいなくなった後の赤穂浅野家についてアレコレ伝言を残さなければと、係に書記を頼んだ。

 しかしこれは何者かによってまもなくもみ消される。内匠頭はそれを知らない。
 

 

 安兵衛が田村邸の裏玄関に到着すると、内匠頭の側用人・片岡源五右衛門が家来衆ともめていた。

「願わくば主人、内匠頭にひと目対面いたしたく、なにとぞこの儀、お取り計らいを…」

「いいや、あいなりませぬっ」

 声を曇らせている片岡は、若い頃から内匠頭の寵愛を受けていた小姓頭である。

 数人の浅野の家来もなすすべもなく、立ち尽くしている。

「片岡様」

 砂埃だらけの安兵衛が声をかけると、片岡は両眼に涙を浮かべていた。

 安兵衛は、その場にガバと両手を支えると

「武士は相身互い。われらを憫然と存じますれば、曲げて願いたてまつりまする!」

 この様子に、田村家の家来衆の顔色が変わった。

「高田の馬場の、安兵衛でござるぞ…」

 ヒソヒソと耳打ちを始める。

 安兵衛の顔はほうぼうに知れていた。

 家来が、田村と検分に来ていた目付に相談をし、彼らは情をもって

「切腹の場所へいずる時、無刀にてひとりだけ対面の儀、さし許しもうそう」

 と許可をする。

「せっぷく…!?」

 安兵衛や片岡たちは動転した。
 

 

 切腹は沙汰でもあったが、内匠頭自らも

「病気が現れて、もしお手向かいでもいたさば一大事。邸内を血潮で汚さぬよう、庭先にて御免」 

 と希望した。

 一国一城の主を無位無官のやから同然に、庭先で切腹をさせたとあっては、伊達本家からどのようなお叱りを受けるか、わからない。

 田村家では騒然となったが、病気の仔細を聞いて仕方がないと判断し、目付けと相談の上で、急いで用意をした。

 水色無地の死に装束に着替えた内匠頭が、切腹の席へと、たよりない足取りで縁側を通るとき、面会を許され待っていた片岡が庭先まで来ているのを見つける。

「源五右衛門ではないか」

「との…」

「源五…予は、かような浅ましい姿に、相成ったぞ」

 袖口を上げると、腕に巻いた包帯に血が滲んでいた。

「…おいたわしや…」

 片岡は顔を上げたまま涙に暮れた。

「もはやこれまでじゃ。後のことは遺言を託した。国許の内蔵助に対面いたさば、必ず仔細を申し伝えくれよ」

 そう言ったつもりであったが、ろれつもまわらない。

 変異して周囲に襲いかからないのは、みるみる自分を蝕んでゆく「なにか」を熱い情念で跳ね返している精神力なのであろう。

 ただもう間に合わない。

 当時の切腹は、短刀を腹に当てる格好をしたところで、介錯人がすかさず斬首する形であったので、内匠頭は立派に最後をまっとうすることができた。

 死ぬまで「自分は正しかった」と心から思えたのが、とにかく清々しかった。

「あとは信頼をおいている家来たちに任せておけば良い」。
 

 

 内匠頭とは同じ年で、少年のうちからこれまで、ずっと側に仕えていた片岡は、この呆気無い今生の別れに、混乱を極めた。

 とはいえ、これものろまに噛まれたのでは成り行きでやむなく、お情けなやと存じながらも「人間であるうちに」武士の道として切腹の座につけたのは、不幸中の幸いと思い、納得させた。
 

 

 一行とともに遺体を引き取った片岡は

「…さぞや上野介をうち洩らせしを、ご無念におぼしめすことであろう…」

 むせびながら語った

「げにも。一刻も早く、処置せねば」

 万夫不当の安兵衛も、この時ばかりは拳を固めて悔し泣きをした。

 気を強く持って冷静になろうとし、お世継ぎのいない領主の跡目には、やはりご舎弟の浅野大学様に相続してもらうことになるのだろうか、などと現実的なことにも目を向けた。
 しかし、このすぐあとで赤穂浅野家の「取り潰し」の沙汰を聞いて、愕然とする。

 

 

 わけがわからないうちに、何故か君主の切腹と家名断絶。

 突如として、路頭に迷う赤穂浅野家の家来と家臣たち。

 

 情報不足で、鉄砲洲の浅野家江戸上屋敷は大騒ぎになっていた。

 ある家老は言う

「おのおのがた!短気を起こしてはならんっ!千万言うてもかえらぬことじゃ。当屋敷を引き取るも三日間…」

 ところが藩士たちは合点がいかない。

「それは異なこと!なぜ当家ばかりがこんな目に!?」

「吉良上野はどうなりました!?」

「ご公儀の命令に従って、あれほど手柄を立てたに、かようなお手軽な退役とは、あまりと言えばあまり!」

「殿が書いたという遺言はなぜ届かぬ!」

「さては幕府め、縁続きの吉良をかばって…」

「いや桂昌院様の出世を優先させたのであろう」

「とにかくこの知らせ、急ぎ播州赤穂の大石殿に報告をせねば」

 

 赤穂浅野家に対する処分は、当時の大小名への改易政策から見ると、珍しくはなかった。

 この四十八年の間に、除封した大名は五十九家。減封四家にものぼっていた。

 側杖を食ってはつまらないと、幕府の威を恐れて、国内外の諸大名に今回の件について異を唱えるものはとても無かった。





●<小説「怪異談 忠臣蔵」11はこちら

小説「怪異談 忠臣蔵」13はこちら>●

 

◯<いっと最初はこちら。

++++++++++++++++++++

〜解説〜

 

 

空前のパロディ小説。

 

書いていて気づいたことなんですけど、ふしぎと、ゾンビに振り回されることで、理不尽なお家つぶしや、藩士の悲憤慷慨のアウトラインがくっきりしてくるんですね。

身の上に起こったわけのわからないことについて「なんじゃそら」と。。

更新はだいたい、土曜日とか日曜日です。

 

どうぞごひいきに!

 

 


もりい

| もりいくすお | - | comments(2) | - |
コメント
>理不尽なお家つぶしや、藩士の悲憤慷慨のアウトラインがくっきりしてくる
まさに!だんだんこれが真相かと思えてくるような(笑)
| ゆらおに | 2019/12/21 11:33 AM |

おにさん
(笑)冥利に尽きる、なによりのオコトバ&#9829;
| もりいくすお | 2019/12/21 4:21 PM |

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