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小説「怪異談 忠臣蔵」13

小説

怪異談 忠臣蔵

〜ゾンビが出てくるやつ〜
(連載13)
 

 

この作品はフィクションです。文中に出てくる名称と、実在の個人名、団体名とは一切関係がありません。

本編には、暴力的なシーンが含まれてございます。
また、たいそう昔の設定なので、現代では不適切と思われる表現が含まれることもございます。
あらかじめご了承の上、ご覧くださいませ。 


※文中の「のろま」とは、ゾンビのことでございます。
 

 

++++++++++++++++++++



 七 大石内蔵助

 

 


 

 

 赤穂浅野が江戸屋敷を引き払い、刃傷事件から約一ヶ月ほど経ったころ、安兵衛は片岡源五右衛門などと共に、山河を隔て、はるばる百六十五里西にある、国許の赤穂へ旅立った。

 安兵衛には浪人姿となって、初めて訪れる国表。

 良い塩が取れる、広大な入浜塩田が広がる瀬戸内海沿岸と、なだらかな雄鷹台山にはさまれた緑あふれる平野には、中央南北に清流千種川が流れ、まことに気候穏やかで豊かな土地柄。

 が、一度城下領内に入ると、峠からの景色からは思いもよらない、まるで蜂の巣をつついたような騒動になっていた。

 まず赤穂領民は、すでにどこからか江戸の凶報を聴いており、不安を抱えて大わらわとなっている。

 そもそも赤穂では、この年の正月に城の門松が、風もないのにボキリと折れてしまった。

 また、大手門のところでは山蜂と小蜂の大群が合戦をしていたという。

 凶兆の噂が広まっており、年の始めが不吉を極めていた。

「異変の兆しが当たった!」

 手元の藩札を現金に両替するため、領内あちこちに設けられた、札座に群がる領民たちの中には、正気を失っているものさえいる。

 城を受け取りに来る幕府の使者と、藩臣たちとの戦争が始まるという噂を真に受けて、大八車に荷物をまとめて、赤穂を逃げ出そうとするものもあちこちにいた。

 そして右往左往する人の波を、やっとかき分けて赤穂城にたどり着いた江戸組は、城内での騒動に、あらためて巻き込まれる。

 事情を知る現場である江戸でさえ、この椿事に納得がいかないのに、遠く播磨の国では急使により「主君の切腹」「お家の断絶」という凶報だけが、立て続けに届けられたのだから、大うろたえも無理がない。

 「江戸でいったい、なにがあったのだっ!」

 そもそも播磨の国までは、のろま騒動も実態としてはほとんど届いておらず、なにもかもが現実味を帯びてないので家来、家臣たちはただただ動揺するばかり。

 江戸からの使者はみな質問攻めにあって、あれやこれや究明もされていない、同じような説明を何度も何度も強いられた。

 赤穂城内では、理不尽な幕府の決定に、断固反旗を翻そうとする意見…つまり城を幕府に明け渡さなければいけないが、これには篭城して徹底抗戦で受け取りに来た使者と、一戦交えて城を枕に、討ち死にしようという意見や、上使がやってきたら一同揃って切腹をして、殉死を以って鬱憤を表意しようなどという意見で割れたのだ。

 なにしろこの城は、公儀がもたらしたものではなく、藩祖と父、祖父が手塩にかけて築いた城なのである。

 なにもかもが腑に落ちなかった。

 いずれにしろ、あの世において殿様に奉公いたさん、という考えだけは、みな同じほうを向いていた。

 それだけに、傍目には対応策がどれもこれもやけくそともうかがえる、乱暴なものであったのは無理もなかった。

 

 噴飯やるかたない家来たちだったが、それでも藩金を分配されると、次第に事態を現実的に飲み込み始める。

 評定を重ねて日が経つに連れて、我が身可愛さも手伝い、歯の抜けるように登城する物が減っていった。

 安兵衛たちが赤穂に着いた頃には、もともと三百人以上いた藩士のほとんどが退散し、百人足らずになっており、実に頼み難きは人心(ひとごころ)であると、安兵衛は嘆いたものだった。

 

 城代家老の大石内蔵助は、曽祖父の代からこの浅野家に仕えてきており、悲憤無念は人一倍である。

 大石は温厚誠実な人柄が誤解されて、上辺こそ昼行灯などとあだ名されるほどに、ボンヤリしているようにも見えるが、じつは大智大才の人物。文武兼備の士であった。

 彼は「去る者は追わず」という態度でつべこべ言わず、最後の評定に臨む。

 そこで彼は

「殿のご無念を継いで、吉良殿を討たんと決心してござる!ご意見あらばご遠慮なく、仰せ聴けられるよう」

 と、沈痛な語気を持って、決心を明かしたのだった。

 

 足利一門の流れをくみ、徳川家がたよりにする高家職筆頭の従四位上の少将・吉良上野介。

 うしろだてには、上杉十五万石が就く、その吉良を殺して、主君の成し遂げられなかった意趣を継いで鬱憤を晴らすなどとは、まさにだいそれた提案。

 江戸城郭内で、しかも奉行所のそばの屋敷に住む吉良上野介に対して、どう挑むのやら。

 それは到底成し遂げることなどかなわぬ、途方も無い提案であり、今のところ、どこをどうすれば実現できるのかなど、誰にも皆目わからない。

 それでも、お金配当、籠城、供腹、と唱えるうちにすぐりあげて、最後まで残った一統の心持ちはひとつになっていた。

「なるほど」

 評定に参加した安兵衛にも、得心がいった。

 一同は喜んで大石のこころざしを受け入れ、起請文をしたためて、すみやかに連名血判をしたのだった。

 

 

 

 

「いやこれは堀部氏か。近うに進まっしゃるがいい」

 その日の夜に安兵衛はあらためて、大石内蔵助の屋敷を訪ねた。

 赤穂の国家老上席、大石内蔵助と江戸詰の堀部安兵衛が会うのは、これが初めてであった。

「さきほど、片岡源五右衛門が訪ねて参った」

 実は江戸から赤穂に向かう道中で、安兵衛と片岡は、お互いに大きな価値観の差異を感じ、喧嘩口論になる前に静かな距離を持っていた。

 すなわち、側用人で小姓頭の片岡にとって、主君浅野内匠頭は幼き頃からの友人でもあり、自分を寵愛してくれていた特別な人物。

 新参の堀部安兵衛が感じている、君恩への情とは思い入れがいささか違っていた。

 お家や殿様を語る際に、小さな食い違いが日に日に積み上がっていったのである。

 そしてついに片岡は、先の義盟にも加わらなかった。

 いわんや内蔵助の思いは「家」にある。

 これもまた安兵衛とは違っているところだ。

「未熟不行き届きの若輩。今後とも…お見知りおきのほどを、よろしくお願い申し上げます」

「なにかとお引き回しのほど」…と、言いたいところだったが、肝心な家がもう無くなろうとしている。

 初めて御意を得たこの国家老とも、今後どのような付き合いになるか、わからない。

 安兵衛は挨拶を曖昧にしたのだった。

「そう固くならんで膝をお崩しなされ。いやあ貴殿の武名のほどは家中一般、もはや誰も知らぬものとてはござらん」

「おそれいります」

「…越後のお生まれだそうだが…。国名物の毒消しというのは、のろまの傷には効かんものかのう」

 本気で問うておるのか戯れなのか、はっきりしないことを急に言われて、安兵衛はあらためて内蔵助を見たが、内蔵助もジッとこちらを見ている。

「生憎と…」

「左様か…」

 この大事に、なんとも間の抜けた事を聞くものだと、ふつうなら思うところだが、このとき安兵衛は内蔵助に度胸を感じて取った。

 それには前々から義父の堀部弥兵衛に、内蔵助の人柄を予め聞いていたおかげがある。

「忠義一徹の君子人」と聞いていればこそ、抜けた風に聞こえる質問にもその裏を読もうとする。

 評定の時の鬼のような形相とは打って変わって、いまは、はなはだ柔らかい表情をしている大石内蔵助。

 ばかか利口か、心の底が読めない策士…。

 あるいは、このあと手間取る城の受け渡しなど面倒が立ちはだかって、ほんとうにぼんやりしているのかもしれない。

 意外にも、至極当たり前の会話をいくつか簡単にかわした後、計略の話などにも触れることもなく、安兵衛は大石邸を後にした。

 ほんとうにあの男は、高家筆頭を殺そうという、大それた計画を実行するのだろうか…。

 みちみち安兵衛はそんなことを考えた。

 やるとなれば命をかけた戦のようなものである。

 一死報恩。そこで自分は終わる…

 

 ともかく安兵衛は、赤穂の諸氏が死生を共にするに足ると思ったし、江戸に戻って早くご家老の意志を、義父の弥兵衛に伝えたいと思った。

 

 

 

●<小説「怪異談 忠臣蔵」12はこちら

小説「怪異談 忠臣蔵」14はこちら>●

 

 

◯< いっと最初はこちら。

 

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〜解説〜

 

 

空前のパロディ小説。

 

先回も申し上げましたが、ふしぎと、ゾンビに振り回されることで、「理不尽」なお家つぶしや、藩士の悲憤慷慨が、リアルに感じられたんで。書いてて。

お殿様がしばし出かけている間に、とつじょ振りかかる大災難。

「江戸詰めは一体なにをしとったんじゃ〜い!」
そらぁ、赤穂藩氏はびっくりしはりますわ。
しかしなんですな。ゾンビが出てこないと、ほとんど「ただの忠臣蔵」ですな(笑)。出さな。

 

 

更新はだいたい、土曜日とか日曜日です。

 

 

どうぞごひいきに!

 

 


もりい

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