CALENDAR
S M T W T F S
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 
<< January 2020 >>
CONTENTS
ARCHIVES
CATEGORIES
<< 小説「怪異談 忠臣蔵」13 | main | 小説「怪異談 忠臣蔵」15 >>
小説「怪異談 忠臣蔵」14

小説

怪異談 忠臣蔵

〜ゾンビが出てくるやつ〜
(連載14)
 

お正月増量版。

 

この作品はフィクションです。文中に出てくる名称と、実在の個人名、団体名とは一切関係がありません。

本編には、暴力的なシーンが含まれてございます。
また、たいそう昔の設定なので、現代では不適切と思われる表現が含まれることもございます。
あらかじめご了承の上、ご覧くださいませ。 


※文中の「のろま」とは、ゾンビのことでございます。
 

 

++++++++++++++++++++


 

 八 幕府のやり方

 

 先の新宿騒動によって御囲いの「患者」があらかた死んでしまった。

 が、その塀は物盗りなどという偶発的なものではなく、じつはたくらみによってわざと壊され、のろまを捕り方の手にかかるよう野放しにし、体よく始末させたのではないか。

 そんな噂が、一部役人の間で立っていた。

 それを裏付けるように、あれだけ血の雨が降った内藤新宿の取り調べは、まことにお粗末なものだった。

 「これは化け物騒ぎである」ということで退治が肝要だと世間が納得していても、人間の姿をしている相手に対し、幕府は将軍直々の「命を大切に」を本領(もちまえ)とするお触れを前に手も足も出ない。

 そんなときに御囲いの事件があった。

 それははかりごとであり、黒幕は幕閣ではないかとささやかれた。

 

 もともと将軍・徳川綱吉は殺伐とした武士気質を嫌い、武断的な政治を目指していた。

 弓は袋、槍は鞘に治まる天下泰平の御代に、化け物相手に堂々と活躍する、赤穂浅野を疎ましく思っても、どうすることも出来なかった。

 ところが間がよく、松之大廊下の出来事で、赤穂浅野をお払い箱にする、恰好のきっかけを得ることとなる。

 同時に綱吉は、徳川家に代々恭順そのもので働いてきた吉良家に対しても、不審を抱いていた。

 家康公以来、吉良家には代々朝廷と幕府の間において、なにかと重要な工作に奔走してもらった。

 その仕事ぶりがあまりにも完璧であったがために、吉良は小身でありながら官位は高く、権利も与えられており、幕廷に勢力もあったから、幕府もしばしば彼の指図に従わなければいけない時があった。

 朝幕関係が安定してきた元禄のいま、綱吉はよいころあいをみつけて、うとましい吉良を潰す好機を探っていたのである。

 そんなとき、うまいことに浅野内匠頭の一件で、吉良が表舞台から姿を消した。

 それでも存外、春の行事のほうはとどこおりなく済み、刃傷事件の三日後には勅使、院使は無事に京都への帰路についたのだった。

 問答無用で赤穂浅野を改易にしたが、次に用済みの吉良上野介を引退に追いやった。

 勤皇な将軍は尊敬している皇室に、今後粗相が及んでは一大事と案じていたし、式典さえ無ければ、喧嘩両成敗で双方とも即日切腹させたいくらいであった。

 目付から吉良について「吉良殿ご病気、ご乱心」との報告が上がってきたのを、待ってましたとばかりに口実にして、松之大廊下事件から半年ほど経って、幕府の指示で家督を息子に譲って、首尾よく隠居をさせる。

 

 厄介払いはつつがなく済んだのである。
 治療のあてのないのろま現象も、防除根絶という形で事態の収拾に近づいていた。

 

 

 

 

 九 東西の暗躍

 

 あまりにも理不尽なお家の改易を、なんとかしてもらえないものか、証明さえできればお沙汰を撤回できることも、あるのではないか…

 大石内蔵助は赤穂を退去し、京都の田舎に転居したあとも、芸州広島のご本家など関係筋に協力を仰ごうと、各所に出向いて嘆願運動をした。

 事件のあらましを知っているものに、証言をしてもらえまいか。

 内匠頭の弟君、大学様をたてて主家再興はできないか。

 たとえ細々ながらでも、赤穂浅野の家名を長く残したほうが、亡君の御心に叶うのではないか。

 内蔵助は縁故ある住職を江戸に派遣し、実力者と会ってもらったりもした。

 とにかく平和主義の彼は、足を棒のようにしてあちこち訪ね歩いたものだった。

 そうした内蔵助の働きには、次第に同情も集まる。

 浅野家と縁戚にあたる、幕府大目付の仙石伯耆守や、大石内蔵助の遠縁に当たる、富田藩の藩主・蜂須賀飛騨守などは、協力に骨身を惜しまなかった。

 殊に蜂須賀飛騨守は、隠居した吉良上野介の住居を将軍のお膝元である呉服橋うちから、さみしい川向うのへんぴな場所に移転させることに尽力してくれた。

 ある日、心安い老中を訪ね

「吉良上野介の屋敷が、しばしば放火にあっている。先年の浅野内匠頭との一件が原因。風向きではご本丸があぶない」

 と、おどかした。

 飛騨守の屋敷は吉良邸の隣であったので、これは説得力を持った。

 相談を受けた老中は、閣老評議の場で話題にすると、そもそも日頃から悪評が高く、病気もすこぶる重体ということで、一日も出府せぬ吉良について、これは老衰によるものと意見が一致し、さらに厄介払いをしたいという思惑が追い風となって、トントン拍子に吉良は閑地にまつりこまれたのである。

 赤穂浪士にとって討ち入りと言っても、兵器をたずさえて見附下をウロウロすれば、たちまち番士に見咎められ、召し捕りになる。

 それがご朱引外の本所松坂町とあれば、討ち入りは、うんとしやすくなったのである。

 

 さらに言えば、吉良が移ってきた場所は、もともと安兵衛が浪人して、棟割長屋の壁を取り払って道場のようなものをこしらえ、長江長左衛門と変名して、剣術や体術を教えている場所と、目と鼻の先である。

 そもそも安兵衛一家は、松之大廊下事件の後、本所の本多孫太郎という、福井藩家老の敷地内にある重縁(弥兵衛の妻の兄が住んでいた)の家に寄食していたことで、その際に本所近辺の地理を把握していた。

 吉良はそうした堀部家に縁類の大名の、すぐ南隣に、わざわざ引っ越しを命じられたのである。

 誰がどこでどう手を回したものか、本所に越してきてまだ三年も経たない、松平登之助という旗本は、上野の下谷に追い払われ、吉良上野介は、その松平家跡に引っ越させられた。

 これほどの助勢はなかった。

 表向きでは関与を逃れるような態度の大名たちが、のろま旗本の制圧に協力してくれているのである。

 また安兵衛は、この松平登之助の家来の某とも懇親の中であったため、手づるで屋敷の地図を手に入れることができた。

 さらに仲間たちの探索によって補足が加えられ、吉良邸の要害はすっかりわかった。

 

 今宵も安兵衛は、麻布の川沿いの暗がりで、年頃三十恰好にもなろうという、流行りの御高祖頭巾をかぶった女と、密書のやりとりをしている。

「思し召しです…」

「千万かたじけない」

「どうかお取り扱いには…。これが知れますと…」

「重々に…。今夜俺は、あんたとは会わなかった」

 安兵衛は、灯りも持たずに早足で去る女が坂の向こうまで、見えなくなる寸前まで見送っていたが、物陰を避け、気をつけて路の中央を歩く女に、不意に横丁から現れた、浴衣姿で裸足の大兵がつかみかかってきた。

「あれえっ」

 のろまだっ!

 安兵衛はパッとかけだして、通りがかりに植木鉢から救い上げるように盆栽を引き抜くと、女のそばまでやってきたところで「おぉいっ」と大兵に声をかけた。

 大兵が動作を止めて、音のした安兵衛の方を向くと、月の灯に浮かび上がるその眼は、真っ赤に充血し焦点が合わず、あんぐりと口を開けてすっかり化けた面付きだった。

 植木鉢から引っこ抜いた盆栽の根をのろまの口に押し込むと、そのまま胸ぐらをつかんで大兵の脚を刈って倒した。

「お早くっ」

 安兵衛が言うと、女はいったんは飛びのいたものの恐怖で顔を歪めながら、手早く腰に巻いたしごきを解いて差し出した。

 なにか縛るものを、とキョロキョロしていた安兵衛はそれに気づくと、硬く微笑んでそれを受け取る。

 数年前に高田の馬場で義理ある伯父の決闘の助太刀に立ち会った時、いま連れ添っている女房・ホリもまた、「たすきに」と真っ赤な緋縮緬の扱き帯を借してくれた。

 フと、そんなことを思い出しながら、のろまの両足を縛り上げて顔を上げると、もう女の姿は坂の向こうに消えていた。

 小さく不気味にうめいて転がっているのろまを、サテどうしたものかと、塵を払いながら立ち上がると、そこへ男が闇からヌッと現れた。

「安兵衛」

 ギョッとして目を凝らす安兵衛。

 安兵衛と年頃を同じくした吉良の附人、清水一学である。

 気配を消してそこにいたのを、うっかりと気取れなかった。

「安兵衛ではないか」

「おおお。…これは一学」

 しまった。悪いところで出会った。

 

 この男はかつて若いころ、剣道において天下の豪傑と聞こえた、小石川は堀内源左衛門の剣術道場で、安兵衛と剣を交わした、腕前のでき得る門人仲間で、百姓の出である。

 子供の頃に故郷・三河で、領主の吉良上野介に直接見初められ、召し抱えられているという珍しい出世をした男で、はなはだ正直者では、ある。

 これまで気にかけていなかったが、ともだちが吉良の付け人であることをすっかり忘れていた。

 

 一学はこの密会をどこから見ていたのか、あるいは見ていなかったのか。

 安兵衛はめまぐるしく、たったいまあった一連のアレコレを回想しながら、一学の出てきた闇との因果関係を探ろうとした。

 そして絶句して二の句が告げられない。

 懐には、たったいま手に入れた、吉良邸の情報を呑んでいる。

 安兵衛が仲間とともに夜襲をかけようとしている、眼前の男が住み込んでいる、屋敷の情報である。

 いま、この男を斬らねばならないのか?

 安兵衛と一学にとって今回の事件さえなければ、晴れやかな再会であったろうが、皮肉にもいまは敵(かたき)と敵である。

「しばらくぶりだ、安兵衛」

「…おお」

「…いやその、驚かせてすまなんだ。先刻からお前を見かけていたのだが、声がかけられなかった。なにやら、込み入ったような様子で…」

 一学は殺気をこればかりも放っていない。

 どうも、それより一学は、もっと別のことに気が行っているようである。

 そこで安兵衛、ためしにとぼけてみせて

「なあに。…浪人する前にあちこちに貸し与えていた金子をな、戻しておるところなのだ。いまは、いささか嚢中が寂しくなってかなわんでなあ」

「…そうであったか…」

 安兵衛が浪人になったという言葉を聴くと、とたんに暗い面持ちになった一学からは、安兵衛のごまかしを見透かそうというような気配はなかった。

 黙って地べたにうごめいているのろまを見下ろしている。

 安兵衛は念を入れて

「よせよ。けっして不実なことではないぞ」

 と、わざとらしく加えた。

 正直者でウブな一学は、安兵衛を見てニコニコと微笑んだ。

 一学が現れたのは、どうやらほんとうの偶然らしい。

「いやはや、いろいろあったわい」

 安兵衛は、早くこの場から去ろうと、のろまをうっちゃっておいて、女が去っていったのとは逆のほうに、一学を誘うように坂を下り始める。

「…赤穂浅野はのろまを、ぶち殺さんのだなあ」

「もう俺は赤穂浅野はかかわりは無いわい。のろまはそれ、そういう厄介なお触れだからな」

 安兵衛はとにかく、一学の気が自分に行くように行くようにと、子をあやすように、話をしやすい雰囲気を作った。

 一学は素直にその雰囲気に乗っていたが、気を取り直し

「安兵衛。…此度の一件は…自分の身に引き比べて…まことに気の毒に存ずる」

 モジモジしながら、やっとそう言った。

 深刻そうな一学に、安兵衛も気持ちを変える。

「…なあに。お前の案ずるところではない」

「いや。これが地が変われば、他人事ではない」

 自分から声をかけておいて、たいそう居心地悪そうにしている一学。

 この男はどうやら、安兵衛を「敵」とは思っていないようである。

 それどころか、安兵衛に不自由をかけている原因が、自分の主人に関わりのあることだと思うと、この友人を同情し、やりきれない様子だったが、かと言って自分が詫びることとも違う。

 どう言葉を掛けていいものやら。

 一学は重ねて

「な…」

 と、なにか言いかけたところで、「ここまで来ればさっきの女の身柄も安心」と思う、大きな通りまで来たので、安兵衛は一学を振り切るように

「また、会おう」

 安兵衛は走り去っていった。

 やりとりのあんばいから、ここで切り上げても決して不自然ではあるまい。

 

一学は、黙って見送ると、ゆっくりと腕組みをして、思案に暮れるようにトボトボと歩き出すのだった。

 

 サテそうして、まずひととおりの万端準備は整った。

 しかしなかなか作戦決行の運びにならない。

 西からはなんの音沙汰もなく、その間に、病気の吉良は「もう死んだ」などという噂が立っては、関東連はじりじりとした。

 歳月がいたずらに流れるうちに、多くの同志が「もう討ち入りは無い」としびれを切らし、ひとり、またひとりと脱盟して別の道を模索し始める。

 座して喰らえば山もむなし。

 貯えも底をつき貧苦に喘ぎ、その日その日にも困るようになってくる。
 気が、焦る。

 なにしろ浪々の身の彼らも、忠義だけでは食べていけないのである。

 ともかく、やるにせよやらないにせよ、はっきりとした判断が欲しくて安兵衛は東奔西走する。

 一学のようすから、吉良邸の用心の加減がなんとなく伺えた気がした。

 しかし決行を先に延ばすだけ、敵の用心は厳重になると、安兵衛は考えては気色ばった。

 

 

 

 

 

●<小説「怪異談 忠臣蔵」13はこちら

小説「怪異談 忠臣蔵」15はこちら>●

 

◯<いっと最初はこちら。

 

++++++++++++++++++++

 

〜解説〜

 

 

 あけましておめでとうございます!令和2年がやってまいりました。

 さて空前のパロディ小説。

 

 吉良上野介が本所に引っ越しをさせられるいきさつを書くにあたって、「討ち入り成功の真相は、浅野内匠頭の親戚で周囲を固められた場所に吉良を追いやったおかげで、これに暗躍したのは堀部安兵衛と縁続きの溝口家である」とする(<こんなマトメ方で正しかったでしょうか…)、新潟大学の名誉教授・冨澤先生の説を使わせていただこうと、ご当人にお願いしたが、原稿をお見せしてないうちから

「使ってもいいけど、ヘンなのには使わないでおくれよな」

と、鼻の効く先生に釘を差され、いやもう、あたしに言わせりゃ、我ながら本作ほど「ヘンな」忠臣蔵はないので、こっちから言い出しておきながらなんなんですが、辞退させていただきました。

 蜂須賀家が関わってくるところや、上野介の引越しにまつわるエピソードは、講談や史実ですでにお馴染みの設定を使っておりまする。

。。

 

一学と安兵衛がばったり合うところは、港区の日向坂のイメージでございます。

 

 

更新はだいたい、土曜日とか日曜日です。

 

 

どうぞごひいきに!

 

 


もりい

| もりいくすお | - | comments(0) | - |
コメント
コメントする