CALENDAR
S M T W T F S
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 
<< January 2020 >>
CONTENTS
ARCHIVES
CATEGORIES
<< 小説「怪異談 忠臣蔵」14 | main | 小説「怪異談 忠臣蔵」16 >>
小説「怪異談 忠臣蔵」15

小説

怪異談 忠臣蔵

〜ゾンビが出てくるやつ〜
(連載15)
 

 

この作品はフィクションです。文中に出てくる名称と、実在の個人名、団体名とは一切関係がありません。

本編には、暴力的なシーンが含まれてございます。
また、たいそう昔の設定なので、現代では不適切と思われる表現が含まれることもございます。
あらかじめご了承の上、ご覧くださいませ。 


※文中の「のろま」とは、ゾンビのことでございます。
 

 

++++++++++++++++++++


 

 十 出会い

 

 


 

 

 安兵衛と郡兵衛は久しぶりに内藤新宿まで来ていた。

 あの凄惨な新宿騒動からちょうど三年が経っている。

 この日にわざわざ、ここまで出かけようと言い出したのは、安兵衛であった。

 異常な事件であったからこの何年か、さすがに豪傑の彼らも、いろんなことが気持ちの上で、整理できていなかった。

 特に郡兵衛は酒量が増え、ときどきわけのわからないことを、うわ言のように口走ったり、そうかと思うと、幾日も布団から出てこないなど、不安定なあんばいである。

 安兵衛はお参りも兼ねて、あの事件の後すぐに建立されたと聞いていた、供養碑に線香をあげに行こうと誘ったのである。

 死者を拝むことで、高田郡兵衛の中でしこった溜飲が下がるかもしれない。

 ただ、以前とは違う、塞いだ郡兵衛とふたりきりでいることに、そわそわと気が張った安兵衛は、なにを思ったか、たまたま足をくじいたミケの子猫を道端で見つけて、拾って懐に入れていた。

 これで安兵衛は、少し気分が和らいでいた。

 

 サテ何ごともなかったように平穏を取り戻した宿場町で、人づてに聞いて辿り着くことのできた供養碑は、あのとき侠客たちと共に闘った四辻に、ひっそりと安置されていた。

 火事を案じた彼らは、線香は手向けず、簡単な供え物だけをして手を合わせた。

 御囲いを逃げ出したのろまたちは、あのあとほうぼうでぼちぼちと目撃されたが、みな一様に町民や町方に首尾よく処置されたものだった。

 このところ風聞も落ち着いている。

 先祖の時代から、災害とともに生きてきたこの国の民衆は、いざというときの足並みがすこぶる揃いやすい。

 正しい行いも間違った行いも素直に、甲斐甲斐しく働いては難を乗り越えてきた。

 

「安兵衛。中野まで足を伸ばして、犬小屋も見て行かぬか」

「ああ、それもよいな。ついでかな」

 これまで黙りこくっていた郡兵衛の、前向きな思い付きに安兵衛は、こころよく合意した。

 ふたりはぼちぼちと、いろんなことを話しながら歩いた。

「夢枕に、化け物が出るよ」

 出し抜けに郡兵衛が言う。

「寝ようとすると出る。無法に出て困る。ひょっとすると、俺は取り殺されるんじゃないかな」

「そういうものは自分の気から出るものだ。気を取り直せば済んでしまうものだ。…なにかうまいもんでも食えばよい。そうだ、食おう食おう」

「安兵衛。お前はのろまを、どう思うか」

「?…どう思うか?」

「いまさらだ」

「…ああいうことは、この世に心が残っているから起こるのだ。命を使いきれば、のろまになってあの世から戻ってくることは無い」

「…業だよ、安兵衛。みな因果因縁。前世の業だ」

「…」

「そして、連中が惨めにあのような姿で我々に打たれるのは、天命だ」

 あれこれと、周りくどいことを言い出す郡兵衛の、色の冴えぬ髭面をした横顔を、黙って見やる安兵衛。

 安兵衛は思わず、懐のミケの頭を弄くる。

「砕いて言えば天の言いつけだ」

「のろまは退治されて、あたりまえだと言うことか?もっともあれは、生きてるのか死んでるのかわからんわい」

 空気を和らげようと、少し冗談交じりに言った安兵衛のコトバだったが、それで郡兵衛の口が急に重たくなった。

「…従うべき天命の道を、どこをどう参ればよいかがわからぬ時がある…」

 安兵衛はちょっぴり声を落として

「討ちい…隠居(吉良)の事を申しておるのか?…」

 答えがない。周りはだんだんと森になっていく。

 郡兵衛はなにやらを、言い出しにくそうにしていたが、やっと

「俺はな。俺はあの時、新宿で、のろまではない男を手にかけたのだ」

 それか。

 それが煮え切らないのか。

 やたらにのろまを退治してしまう郡兵衛には、そういう間違いもあったろうなと安兵衛は思った。

「…今日はその供養をするつもりで?」

「斬った男が言い残したことが、耳について離れん…」

 郡兵衛のきれぎれの独白からは、安兵衛になにも届かない。

「お前はとかく、いろいろ考えすぎる。天命だと言うたではないか。ならば仕方もあるまい」

 そう言ってほしかったのかな、と気を回した。

 元来、弱気になってる者を相手にしては居心地の悪くなる安兵衛であったが、精一杯のなぐさめであった。

「…」

「自分で勝手に気を重くしておる。少し、想うがままに身を任せてみたらどうだ」

 これは経験から来る助言だった。

 安兵衛にも身の上に降りかかった、納得の行かないアレコレが、幼少期からいくらもあった。

 ものごころついた時に、病気で母親をなくしたこともそうだったが、特に男手ひとつで自分を剣豪に育ててくれた、尊敬する父親は、実はお役目中にのろまに襲われ、少年安兵衛の目の前で、余儀なく同役に斬られて死んでいるのである。

 彼の故郷、越後新発田の蒲原郡は、事件の起こりを抱えていると言われている、米沢からそう遠くはない。

 東北から越後にかけて、猛威を振るったのろまの災厄は、幼い安兵衛の心に傷をつけている。

 現在にいたり、安兵衛がのろまを出来るだけ斬らないでおこうとするのは、愚直なたちもあったが、実父のことも大きくかかわっていたのだろうか。

 ともかく、業だ因縁だ天命だなどという話は、いやというほど身にしみている安兵衛である。

 彼は、ただただ正しいと信じる道を、生命を的にかけて行くよう心がけ、身を任せている。

 たとえひと目に矛盾と映っても、その都度に、信じる道を選んだ。

 郡兵衛はもっとなにかを話したそうにしていたが、そのきっかけを見つける前に、ふたりは思い出の丘の上に到着した。

「勝助が、ここいらで死んでいたわい」

 ふたりは黙って手を合わせた。

 

 

 

 

 すると、雑木林に囲まれた荒寺のほうから、なにやら騒ぎが聞こえる。

 それが大勢の乞食のようであったから、最初はうっちゃっておこうと思ったが、時折子供の悲鳴のような声もする。

 二人がなんとなくそっちのほうまで覗きに行くと、姉弟らしい子供を、十人くらいの大人の乞食がよってたかってワアワアと罵っている。

 乞食のひとりは竹竿の先と、のろまの首とを結わいつけ、竿を器用に使ってのろまの動作をあやつり、羽交い締めにされているふたりの子どもに、食いつかせようとけしかけていた。

 のろまは目の前の新鮮な子どもたちに興奮しているようすである。

「まったく、とんでもねえガキどもだっ」

「面倒だ。一思いに、のろまのエサにしちまえっ」

「待て待て。なんでそんなことをする!」

安兵衛が声をかけた。

 乞食たちはビックリしたようだったが、悪びれたようすもなく

「へえ。どうぞおかまいなく。旦那がたの出る幕じゃございません。こいつら新米が親分に付け届けもしねえで稼業(しょうばい)をしやがる、ふてえやろうなんで。へえ」

 子どもたちは、なりこそ汚いが、どことなくようすに品がある。

 安兵衛と郡兵衛のふたりは、この子らになにか事情があると思い、とりあえず無礼な乞食たちを脅かした。

「待たぬにおいては貴様ら、なで斬りにいたすぞぉーっ!」

 安兵衛が大きな声でそう凄んで、柄に手をかけ、居合腰になってヂリッと進むと、乞食たちは悲鳴を上げて、子どもたちと、棒のついたのろまを置いて逃げていってしまった。

 残されたふたりは

「…ありがとうございます…」

 恐怖に疲れきって弱々しくそう言いながら、丁寧に両手をついたようすは、確かに仕込まれた行儀作法と見えた。

 ふたりは涙を浮かべている。

 郡兵衛は億劫そうにのろまの棒を引き、適当なたぬきの巣穴にその先を突っ込んだ。

 よたよたと後ろ向きにひっぱられてついてきたのろまは、しっかり突き刺さった棒に結かれた首を支点に、茶店の吊り下げ旗か、てるてる坊主のように、その場でか細く足踏みをしている。

「なにか仔細があるようだな。申してみよ」と、安兵衛。

 そう言われても、娘はすっかり怯えきって押し黙っていたが、安兵衛の懐から顔をのぞかせて、こっちをきょとんと見ている子猫の顔に、一瞬顔をほころばせると

「ご親切のお言葉…お隠しするのも失礼ですので、なにもかも申し上げます」

 と、だんだんと話しを始めた。

「私どもは元・武士の子。私は小雪。弟は正太郎ともうします。親代わりの親戚が急に死んで苦労をしております。これもみな親の敵(かたき)のため…」

「なに親御の敵…」

 安兵衛が思わず前に出る。

「どんないきさつだ」

「三年前の内藤新宿での、のろま騒ぎのどさくさで、父は殺されたのでございます」

 新宿騒動はおおきな事件であったから、話の種は事欠かない。

 こうした孤児(みなしご)の話はどっさりあった。

 安兵衛は真剣に話を聞きながらも、これが泣きの入った新手の乞食商法かもしれぬとも、少し胡散にも思っている。

「父君の名はなんと申す」

「父は薩州島津の家来、下坂十太夫と申します」

 これを聞いて、高田郡兵衛の顔色がサッと変わった。

 下坂十太夫と言えばたった今、安兵衛に話していた、のろまではないのに斬った相手である。

 当座、下坂というその男は、手のひらを噛みちぎられており、もはや手遅れに見えたが正気だった。郡兵衛はいささか不本意ながら斬り倒した。

 安兵衛はそういうことを知らない。

「打つべき相手は、何者か知っておるのか」

 と、さらに聴いてくる安兵衛。

「それがわかりません。でも見たんです。真っ黒ななりで頭巾で顔を隠していてわかりませんでした。でもはっきりこの目で父が殺されるのを見たんです」

「ずきん…!?この間の新宿騒動と言うたな。どのような年格好であった。もっと詳しく申してみよ」

 どんぐりのような眼をふたりに向ける安兵衛をよそに、郡兵衛が割って入ると、二人にそっと話しかける。少し鼻息が荒い。

「どうだ、ご両人。この土地におったらまたどのような目に合うかわからぬ。おれの家でゆっくり休んだら。決して悪いようにはせん」

 突然の申し出にありがたい、うれしいというより、戸惑って顔を合わせてうろたえる姉弟であったが、安兵衛の動揺をよそに郡兵衛は、半ば強引にふたりを本所にある自分の住処まで連れて行った。

 

 郡兵衛が斬った下坂十太夫は、たしかに子供のことを言い残して死んでいった。

 しかし断末魔の男の話はなんだかよくわからなかったし、状況の異常さなどから当時、男の遺言について冷静に深く詮索しなかった。

 おかげで遺子たちは乞食になってしまった。

 聞けば姉の小雪は十二才。正太郎は十才だという。

 幼かったこの子らが、どこの物陰から父親の最後を見たものか。

 放っておけば、かならず化け物に変異していた男ではあったが、下坂十太夫の死には自分が責任があると郡兵衛は思った。

 そう思って、あれからずうっと胸になにかがつかえていたのだ。

 これは間違いなく天の導くめぐり合わせだと思うと、この養い手の無い子らに何かしてやる事こそ、あの男への供養、罪滅ぼしになると思った。

 

 それから郡兵衛は、それは丹精して姉弟に武術を教えた。

「敵(かたき)に会っても、決して敗(おくれ)を取らぬようにしてやるからな」

 これが口癖であった。

 姉弟は郡兵衛がそういう度に

「そうしたら敵が討てましょうね」

「ああ討てますとも」

 と、小さな手を取り合って喜んだものだった。

 

 

 

●<小説「怪異談 忠臣蔵」14はこちら

小説「怪異談 忠臣蔵」16はこちら>●

 

◯< いっとう最初はこちら。

 

++++++++++++++++++++

 

〜解説〜

 空前のパロディ小説。

 

羽交い締めにされているふたりの子ども」つってんのに、挿絵では、はがいじめにされておりませんでした。

これはきっとアレですね、羽交い締めにされて、ゾンビ(あ、ゾンビって言っちゃったよ。のろま)のそばまで来たら放り出されたテイですね。

。。

 

 

更新はだいたい、土曜日とか日曜日です。

 

 

どうぞごひいきに!

 

 


もりい

| もりいくすお | - | comments(2) | - |
コメント
や、こんなところに仇討ち姉弟。前原ではなかったのね。
| ゆらおに | 2020/01/11 1:30 AM |

おにさん
そ〜なんです。
のちの「あとがき」に用意してるんですが、初稿では、安さんの相棒は前原伊助(フグのバージョン)だったんです。
これもなかなか味わいがあったのですが、でも、両人活躍しちゃうんだと、バランスが取れなくてご覧のようになった次第。
| もりいくすお | 2020/01/11 9:40 PM |

コメントする