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小説「怪異談 忠臣蔵」16

小説

怪異談 忠臣蔵

〜ゾンビが出てくるやつ〜
(連載16)
 

 

この作品はフィクションです。文中に出てくる名称と、実在の個人名、団体名とは一切関係がありません。

本編には、暴力的なシーンが含まれてございます。
また、たいそう昔の設定なので、現代では不適切と思われる表現が含まれることもございます。
あらかじめご了承の上、ご覧くださいませ。 


※文中の「のろま」とは、ゾンビのことでございます。
 

 

++++++++++++++++++++


 

 十一 脱盟

 

 両国橋のそばに居を構える堀部弥兵衛は、元・浅野内匠頭の留守居役。

 八十歳にもうすぐ手が届こうかという、高齢だが血気の壮年。

 留守居といえば、いまで言う外交官である。

 現役の時は相当な働きぶりで、年分千両ほどの豪快な交際費を取っていた。

 世知に長け武術の心得もある、頑固一方、大勇猛の、やかましおやじである。

 安兵衛が堀部家に入ったのも、この老人の猛烈な情熱があったからであった。

 弥兵衛は、安兵衛の高田の馬場における決闘を、たまたま目撃した。

 十八人をやっつけて、自分は薄傷一箇所も負わないという、その立ち回りにすっかり惚れ込み、安兵衛宅に日参して「我が婿に」と口説き落としたのだ。

 安兵衛が闘っていた時に、一緒に現場で見物をしていた娘・ホリが、平打の銀のかんざしを前頭部の保護に、扱き帯を「たすきに」と貸してやった…あれが結納だったというのが、安兵衛に付け入る得意の口実であった。

 それが安兵衛の、赤穂浅野に仕えることになったきっかけでもある…。

 

 この日、ホリが夫・安兵衛の道場まで出かけようとすると、老人は底を抜いた桶を頭から被り、頭の上半分を出して目だけキョロキョロさせ、たんぽ槍を持って庭に立ち尽くして何やら「ウ〜ン」と唸っている。

 肩で支えられたその桶からは、何本かの紐が胴回りにぶら下がっている、これまた底の抜けたたらいにつながっていた。

 まるで庭園の松の枝に装飾された裾縄吊りか、牡丹の霜よけのようである。

「マア、お父様。その格好はいかがなさいました」

「いや、のろまというやつは柔らかいところを狙って来よるでな。特に顔じゃ。侍であれば虚無僧笠でもかぶっておればよいものだが、町民になにか、よい手立てはないかと思案したが…」

「でもそれでは、動くたびに鼻の頭をぶつけやいたしませぬか」

「それなのじゃ。よいところへ心づいたな褒めてやる。お前、なにかよい手をいますぐ考えろ」

「そんなものより、帯でも首に巻いたらよろしいのじゃございませんか」

「タワケめっ。この仕掛けの良い所がわかっておらん。桶の幅は噛もうとするのろまに間合いを取れるのだ。ああそれ、ちょっとお前、のろまになったつもりでこっちへ掛かって来い」

「いやでございますよ。わたくしは旦那様に弁当を持って行くところでございますから、御免こうむります」

「オオそれは大事じゃ。早く行ってやれ。こんなところで油を売ってる場合か、タワケめ!」

 小柄な老体のどこにこのような活力があるのやら、いつも夕立のようにコロコロと気性が変わる。

 そしてその娘のホリも男まさり。

 子供の頃から毎日のように、男の子とケンカをしては相手をぶん殴ったりと、なかなかのお転婆であった。

 いまでは文武両道は男子も及ばぬ女丈夫である。

 なぎなたの心得もあるから、のろまなどはいささかも恐れるところではない。

 貞節で才色に秀いで、安兵衛によく仕えた。

 ホリは塀の戸締まりに手を添えると、まず節穴から表通りの様子を見てみる。

 このときに平常どおりの通行人があるようなら、あたりにのろまがいないことが確認できる。

 のろまが蔓延しているこの世界では、町民には、あたりまえの仕草となっていた。

 通りには人影がない。

 ホリは念の為に腰を落とし、裏木戸をまずは少しだけ用心深く開けて、隙間から通りのようすを伺った。

 だんだんと大きく開けて、通りに顔を出したそのとき

「うわッ!」

 と、背後から耳元で大きな声がした。

「あッ」

 とビックリして振り返ると、弥兵衛がカラカラと笑っている。

「油断だ。ホリ」

「殺気がいたしませんでしたもので」

「言い訳をするな。死んでるのろまに殺気などあるものか」

 そう言って家の中へ戻る無邪気な父親の背中を見送るホリだったが、その体制は不意をうたれながらも、相手のむこうずねを蹴らんとする、払い蹴りの構えになっていた。

 すんでで、それを止めている。

 着物の前を直しながらまっすぐ立ち上がり、戸を大きく開け、なんとなく漂う空気を嗅いでみる。

 のろまの独特のニオイはないか。

 表にのろまはいないようだ。

 

 

 堀部弥兵衛一家の家から、隅田川を挟んで間もなく安兵衛の道場がある。

 いずれも本所吉良邸の目と鼻の先。

 長屋を改造した、道場とは名ばかりの稽古場が見える角まで来ると、ふだん仲良くしている隣の糊屋のばあさんと、あの姉弟がもみ合っているのが見えた。

「小雪ちゃん?」

 早足で近づきながら様子を見ていくと、どうやら正太郎を取り合って、ばあさんと小雪が腕を引っ張りっこをしているようだ。

 すわ、隣家のばあさんも取り憑かれたかと、通りがかりに立てかけてあった長箒を手に取ると

「おばあさん、その手をお離し!」

 と、父・弥兵衛から仕込まれおいた薙刀の要領で、箒を天地上段に構えた。

 すごい形相で飛んでくるホリに気づくと、ばあさんは

「はあっ」

 と言って正太郎から手を離してオタオタしている。

「ホリさまっ」

 子どもたちの顔がサッと明るくなる。

 ばあさんはのろまにあらず、なにやらただ血迷っただけのようであったが、イタズラにしては度が過ぎると思ったホリは、少し脅かすつもりで、今度は中段の構えで箒の先をばあさんの鼻先にピタリと付けた。

 とたんにばあさんはハラハラとベソをかきはじめた。

「おばあさん?」

 さっきまで乱暴を働いていた者の態度にしては、いかにも弱々しい逃げ腰に、思わずホリは呆れて声をかけた。

 どういう事情なのかさっぱりわからない。

 ばあさんはなにも言わずに、たよりなくよろよろと自分の家の中へ消えていった。

 

 

 

 

「一体どうしたの?」

 茫然としている姉弟にホリが聞く。

「わかりません。私達が道場につくと、出し抜けにおばあさんが家から飛び出してきて、正太郎をさらおうとしたんです」

「先生たちはお留守?」

「はい。声をかけてもお返事がございません」

 ホリは少し心配になったので、ばあさんの家を覗こうかと思ったが

「ホリさんはお強いんですね」

 小雪にそう声をかけられて、振り返り立ち止まった。

「え?」

「私もホリさんのような、道徳堅固な人になりたいんです」

「オヤ気恥ずかしい。どこでおぼえたの。そんな、こましゃくれたことを…」

 ホリは少しのぼせた。

「私にも剣術を教えて下さい」

「姉上の痩せ腕では無理ですよ」

「またそんなことを。ホリ様を御覧なさい」

「ホリ様は別です」

 無邪気に言い争うふたりは、ここに連れて来られたばかりの頃の暗さが、ほとんど無くなっていた。

 ホリも安兵衛と同じく、高田郡兵衛がなぜ彼らに優しくしているのかを知らなかった。

 ホリは持ってきた弁当を二人に与え、三人仲良く軒下の横手に腰掛けた。

「正太郎さんはみっちり稽古をつけてもらって、たいそう腕を上げているそうですね」

「そうなんですよホリ様。弟は高田先生にいつもほめられて…」

「いいえ。まだまだですっ。これではまだ父上の仇は討てません」

 高田馬場の一件で名が売れた安兵衛と違って、郡兵衛は変名をしていない。

「前から聞こうと思っていたのだけれど、仇のあてはあるの?」

「はい。元・播州赤穂の侍です」

 ホリは目玉をまろげて、固まった。

 この子は…なにを言っているのか。

 冗談にしては、たちが悪い。

 いやいや、自分が元・赤穂藩士の妻であることは、言っていないから知らないはずである。

 魂胆があってわざとカマをかけているのか?

 行儀よく油揚げ飯を頬張っている、気散じない、あどけないふたりの横顔からはそうした邪気はとても読み取れなかった。

 ともかくホリは混乱した。

「相手が武道を尊ぶ赤穂浅野では、到底歯が立ちません。ねえホリ様。高田先生は助太刀をしてくださいますでしょうか」

「え?ああ、そうね…。ああいや、でも、どうかしらねえ」

「ちかごろ先生は、元気が無いんですよ。ね、お姉上」

「そうなんですよホリ様」

「ね、ふたりとももう一度聞いてよいですか。アコウ、アサノ?」

「はい。そこまでは、ようやくわかったのです。のろま退治のおさむらい」

「でもわかったのはそこまでで、相手がどこの誰だかは雲をつかむようなお話です。内藤新宿でたいそうのろまが出たときに、駆けつけたおさむらいなんです」

 いよいよ安兵衛たちに籍が近い。

 奇態なことがあるものだ。

 高田郡兵衛はなぜ、赤穂浪士を討とうとしているこの子らを鍛えているのか。

 知らずに鍛えているのか。

 どうやって望みを叶えてやろうというのか。

 ホリの頭の中は散らかった。

 そこへ仲間との密会を終えて、いつもより遅めに安兵衛が道場に現れた。

 懐中から子猫が飛び出して、子どもたちにヒョコヒョコと駆け寄る。

「長江先生!」

 屈託なく子供らが声をかける。

 ホリはまだ安兵衛の変名に慣れていない。

「待たせたかな。中に入っておればよいものを。高田はどうした?」

 そう言いながら先に立った安兵衛が、ガラリと戸を開けると、道場の神棚に向かって正座している郡兵衛の後ろ姿があった。

 四人はギョッとした。

「いたのか」

 最前からいたとすれば、糊屋のばあさんとの騒ぎも洩れなく聞いていたはず。

 ホリは少し、うろんに思った。

 このところなんとなく、この男の様子はおかしい。

「先生、こんにちは!」

 郡兵衛は立ち上がってコクリッとみんなに一礼をすると、安兵衛のほうを向いてなにか言い出そうとした。

 そのとき、隣の家から

「あれえーっ!」

 という年寄りの悲鳴が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 〜つづく〜

 

 

 

●<小説「怪異談 忠臣蔵」15はこちら

 

 

◯< いっとう最初はこちら。

 

++++++++++++++++++++

 

ものがたりはいよいよここからが面白くなるわけでございますが!

なんとなんと!

お時間がいっぱいいっぱいでございます。

(なんつって)

 

 

〜解説〜

 

 空前のパロディ小説。

 

講談ファンには言うまでもなくお馴染みの、前原伊助のもじりでございますな。

ていうか、この作文の初稿では、安さんの相棒は前原伊助だったんです。槍の前原。

 

ただ、堀部安兵衛となんだか釣り合いが取れなくて、そもそも江戸急進派トリオである郡兵衛に登場願った次第。(だから奥田孫太夫さんも出てもらっても良かったですが、ここはトリオよりバディみたいな感じにしたかったので…)

ホリの絵は、ものすごい勢いで掃除してるみたいなかんじになりましたな。


 

更新はだいたい、土曜日とか日曜日です。

 

 

どうぞごひいきに!

 

 


もりい

| もりいくすお | - | comments(2) | - |
コメント
やはり、弥兵衛老が出てくると、物語が楽しくなりますな。
ばあさんの謎行動が気にかかります。
| ゆらおに | 2020/01/19 12:02 PM |

おにさん
んもう、ほんとうにお付き合いくださいまして恐縮千万でございます。
「おかしみ」の有用さは、歌舞伎から学びました(ニコッ)。
| もりいくすお | 2020/01/19 6:56 PM |

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