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小説「怪異談 忠臣蔵」18

小説

怪異談 忠臣蔵

〜ゾンビが出てくるやつ〜
(連載18)
 

 

この作品はフィクションです。文中に出てくる名称と、実在の個人名、団体名とは一切関係がありません。

本編には、暴力的なシーンが含まれてございます。
また、たいそう昔の設定なので、現代では不適切と思われる表現が含まれることもございます。
あらかじめご了承の上、ご覧くださいませ。 

※文中の「のろま」とは、ゾンビのことでございます。
 

 

++++++++++++++++++++


 

 十二 内蔵助江戸下向

 

 松之大廊下事件から一年と四ヶ月ほど経って、ついに内匠頭の舎弟・大学が広島は浅野の本家に左遷…という厳命が下った。

 大石が念じていた家の再興の希望は絶たれたのである。

 腹わたをズタズタにちぎられる思いで、内蔵助はあらためて討ち入りの快挙を急がんと決心した。

 京都山科に浪宅をかまえ、敵の目を欺くために酒色にふけっていた大石内蔵助が、いよいよ討ち入りのために江戸下向を決心したのは、この時である。

 

 十一月初めになると、大石は江戸に入る前、川崎の平間村の友人宅に、京都や大坂から先に変名して暮らしていた、忠義に熱い府内の同志を集めた。

 寄ってくる者はみな、武士であったり町人、医者というふうにさまざまな風体をしている。

「これまでの内蔵助のとってまいった行動には、さぞかし不満足もあったことでござろう」

 内蔵助は一同を見回す。

「我らは世々浅野家の禄を食み、御恩を蒙ったものでござるから、どうしても一縷の望みを捨てきれなかった…。しかしこの度のご沙汰にて、まったくお家は絶えもうした…」

 部屋に緊張が走る。

「おのおのがた!いよいよ亡君の無念を晴らしたてまつるぞ」

 来る時が、来た。

 列席の面々はいずれも、喜色満面にあふれた。

「江戸表にあるものはみな満足でございます。 大夫なくして軽輩だけで無理をし、仕損じれば実に末世の笑いもの。忠義が却って不忠となっていたことでございましょう」

 安兵衛は内蔵助の前へ進みいでて、興奮気味にそう言った。

 

 赤穂で誓紙血判をした百名ほどの浪士は、その半分たらずに減っていた。

 それでも彼らは、苦心に苦心を重ね、あらゆる手段をめぐらし、吉良邸内のようすを探って、確実に上野介が在宅している日取りを探りだした。

 

 

 十三 疑惑

 

 ある晩、ひさしぶりに十二分に酔った安兵衛が、居酒屋の木戸を開けて出てくる

「じじい、また来るぞ」

 すると軒先で安兵衛に声をかける者がある。

「安兵衛…」

 声のするほうを向くと、そこには清水一学の姿があった。

「おお…。…一学ではないか…」

 よくよく闇夜にヌッと現れる奇っ怪なやつ。

 だが今夜の一学は、いつぞや再会した時とはなにか違う、妖気のようなものをはらんでいる。

「どうだ。ひさしぶりに」

 安兵衛は取り繕うように、いま出てきたばかりの店に一学をぎこちなく誘ってみる。

 黙ってあとから、店の中へついていく一学。

「じじい、また来たぞ」

「アレ安さん、なにか忘れ物で」

「なんの。朋友と酌み交わすのだ。どんどん持ってこい。肴の一両と酒を五升持ってこい」

 冗談を言っても、いっこうに二人の空気は変わらなかった。

 酒が運ばれてきても、安兵衛がお互いの一合枡に酒を注いでも、慎重の態度でどちらも容易に口を開かない。

 特に一学は枡を盛ったまま、ジッと安兵衛を恨めしげに、また睨むがのように見てなにやら思いつめている。

 内兜を見透されるようで、なんともきまりが悪い。ともかくいつもの、この男ではない。

 安兵衛は一気にガブリッとやると、一学を見てニコリと笑ってみせる。

 笑顔にひっぱられて一学が、重たく口火を切った。

「やっぱりのろまは、退治をせず、役人に突き出すのが良いか?安兵衛」

 出し抜けに何の話だろうと思いながら

「なんだ、またそれか。良いとか悪いではないよ。お役目の時は言いつけを…」

「じゃあ、じゃあいまは?お前は、浪々の身だ」

「…いま?さて、どうかな」

 続けて、小さく絞りだすような一学の声。

「貴様は…吉良様を殺そうとしているのか」

 酒を口に運びかけてた安兵衛の動きが、一瞬止まりかけたが、またそのままガブリ。

 こういう誘い水に乗っかって、郡兵衛は去って行くこととなった。

「なにを言うのかと思えば」

 酒をつぐ。

「隠すな。…吉良様は…、生きておられるぞ」

 安兵衛はこの言葉を挑発と受け取った。

 乗るまい。

「…そうか。なにしろ上杉家ではもう、屋敷内はのろまでひしめいておる、病家トンビなどという妙な評判も聞いておったが。息災とは重畳、重畳…」

 かぶせるように一学は

「どうして上杉家でご病中なのは、綱憲様たったおひとりだけじゃ」

 これには安兵衛の動きが止まった。

 興味のある話である。

「ただひとり?これは異な。てっきり…」

「綱憲様と吉良様のご容態は、進むのがちと遅い。噛まれて化けたのろまとはわけが違うのだ。…知行に長けた、ご家臣のお陰でな」

「ハテ。そんなに当てになる、祈祷か医道の心得のある者が、上杉家にあるのか?」

 安兵衛が話に引き込まれていく。

 一学は子供がいやいやをするように首を横に振ると

「キリのほうじゃない。ハナのほうなのだ…」

 一学はここで酒をグイッとやって、また酒をつぐ。そしてまたせわしなくグッとやる。

「…ハナ??」

 一学はなんだか悔しそうに、壁の隅を睨みつけながら小さく

「綱憲様と大殿様は…一服盛られたに違いないのだ…」

 と言うと、真っ直ぐ安兵衛の眼を睨んで

「のろまの毒を、な」

 突拍子もない話に、安兵衛は固まった。

 

 

 

 

 もともと吉良上野介の妻は、上杉家の女子であり、三代当主が逝去したところで跡継ぎがいなかった上杉家に、吉良夫妻の実子・綱憲を養子に出している。

 ところが成長した綱憲がなかなかの浪費家で、藩の財政が苦しいにもかかわらず書院の造築や、趣味で能舞台を新築したり、高額の装束を新調したりした。

 そしてたびたび実父で派手好みの吉良に、上杉家の蓄えを資金提供していたのだが、これがなかなかに膨大であった。

 さみしかった上杉家の財政は、逼迫に輪をかけたものだった。

 家督問題は解決したが、米沢の貨財をかすめる厄介な荷物まで背負い込んだものだと、代々仕えている上杉家家臣たちは、業を煮やしていたのである。

 それがためなのか、そもそも三代当主を毒を盛って殺したのが、吉良上野介ではないかという悪い噂まで内部から立っていた。

 そもそも上杉家には毒殺にまつわる話はすでにあって、吉良上野介と妻・富子とを取りなした会津藩主・保科正之の娘も、毒殺によって不帰の客となっている。

 真相はあきらかではないが、正之の妻・聖光院が側室の子を毒殺しようとしたのが、誤って自分の娘がその毒を飲んでしまったと言われている。

 この件の重要な容疑者である聖光院は、事件から三十年ほど経って他界するが、弔問に来た三代目会津藩主・松平正容の袴の裾を、死の床からヌッと手を伸ばし掴んで離さなかったという逸話もあった。

 それがおよそ十年ほど前の話であり、東北にのろまの噂が立ち始めたころと合致する。

 

 一学は上杉家ではなく、吉良から雇われている男である。

 前に会った時から今までの間に、一学は一体なにを掴んだのか。

 それとも妄断しているのか。

「謙信公以来の名家ではな、強欲でややもすると悪計をめぐらす親子には、ほとほと手を焼いておるのだとよ」

「…」

 一学は安兵衛に向き直ると

「ともかくわしは吉良様を守るぞ。士はおのれを知るもののために死す…だ。いざというときは、真剣勝負だぞ、安兵衛!」

 一学はそわそわと、思いありげに物騒なことを言うだけ言いおいて勘定を台に叩きつけると、店を出て行った。

 残った安兵衛は、黙って、飲み続ける。 

 一学はまだなにか言いたげだったが、安兵衛もほじくり出さなかったので、その真意はわからず仕舞。

 上杉家には自分の殿様である吉良上野介に、たいへん不利がかかる陰謀があると言いたげで、それがために吉良が生命を付け狙われるのは迷惑だと、それを切歯しているようす。

 しかしその真相は、踏みにじられた赤穂浅野の武士の一分とは、かかわり合いのないことである。

 安兵衛には、なんの頓着も無い。

 おれがそれを聞いて、どうする?

 自分のやろうとしている大義は、ビクともする了簡ではない。

 殿の意趣を継ごう。

 

 このように、決心を試すかのように、討ち入り決行日の引き伸ばしや仲間の脱盟、今夜のような意外な内情…うわさ話や盲説は、事欠かず次から次へと湧いて出てきては、目の前でフワフワと煙たくただよう。

 それはそのつど、江戸詰の浪士たちの、結束をおびやかす種となっていたが、安兵衛はもうたくさんだとばかりに、風に柳と受け流す。

 吉良上野には死んでもらうしかない。

 ただそれだけなのである。

 

 かつて郡兵衛は「人の命は天にあり」と安兵衛に言っていた。

 その時応えなかった安兵衛は、実は

「命は天にあるにあらず。ただその人に在り」

 と、思っている。

 振りかかる難儀は因果づくとあきらめるとして、自分の道は自分で選ぶ。

 そうして行き先が決まる。

 なにごとも自分次第なのだ。

 その時その時「それが正しい」と信じるままに道を選ぶ。

 正しい道を選ぶには、正しいと思う生き方をする。

 一本気な安兵衛は揺らがない。

 胆の座った男だった。

 

 ただ今夜の一学は脅しでもなく、かどわかしでもない、忠義一途の表れである。

 あいつは今宵、俺を付け狙って待ち受けていたのか?それともたまたま出くわしたのか…。

 ともあれ、運の悪さは、自分の殿様も吉良上野介も、なにやら似たようなところがあるのかもな、と安兵衛は感じた。

 上杉家にしても、とんだとばっちりなのかもしれない。

 

 安兵衛は残りの酒を煽ると、ひとり微苦笑をたたえた。

 

 

 

 

 

●<小説「怪異談 忠臣蔵」17はこちら

小説「怪異談 忠臣蔵」19はこちら>●

 

◯< いっとう最初はこちら。

 

++++++++++++++++++++

 

〜解説〜

 

その日から、300年の時がうつろい…

物語で言いがかりを付けられている、山形県・米沢市。
(すみません汗)
米沢城の本丸奥御殿跡には、上杉家のご霊廟があります。
かつては「忠臣蔵は見ない」とされていた米沢。
上杉神社のガイドさんが殊の外、赤穂浅野が大嫌いで、言い争いにならないように会話をするのに、骨が折れました。(もちろん、たまたまその人だけがそうだったのでしょうけれども)

 

 

▼上杉博物館には、本文に出てくる能舞台が再現され、ときおり、お能のライブもあるそうです。

 

 

そして、お越しの際には米沢牛に舌鼓をお打ちあそばしまし。

 

 

 

 空前のパロディ小説。

 

 謎の多い赤穂事件を作家がフィクションを加えてドラマ化すれば、必ずとばっちりで割りを食うキャラクターというものがございます。
 大悪人にされてしまった吉良上野介。
 殿様の側近で、松の廊下事件のキッカケのように描かれる赤穂藩家臣の藤井&安井のご両人。
 近年では映画「決算!忠臣蔵」において、美濃大垣藩がワルモノになってます。

 え〜…。本作品では、たいへん面目ないのですが、米沢藩に申し訳のない疑惑を背負っていただくことにいたしました。

 実在の個人名、団体名とは一切関係がありません。

 どうぞあしからずご容赦願います。

 あ、あと、「のろまの毒」、につきましては「怪異談 忠臣蔵04」(リンク)にて、触れております。


 

更新はだいたい、土曜日とか日曜日です。

 

 

どうぞごひいきに!

 

 


もりい

| もりいくすお | - | comments(4) | - |
コメント
や、討ち入りに向けて動き出したかと思えば、新たな謎が!のろま毒とは何か?ゾンビウイルスを生物兵器として使う試みなのか?進行が遅いのはなぜ?黒幕は、千坂か色部か、はたまた小林平八郎か?
待たれる次回。
| ゆらおに | 2020/02/01 6:53 PM |

おにさん
なはは!ありがとうございます!
や、「怪異談 忠臣蔵」04に登場した奇薬で、先回それとな〜く忍ばせておきました。
くろまく、ねーっ!
(^O^)
| もりいくすお | 2020/02/01 9:51 PM |

や、なるほど。失礼しました。きちんと伏線を張っていたのですね。ゾンビ部分はかなり読み飛ばしてました…&#128517;
| ゆらおに | 2020/02/02 8:59 AM |

おにさん
いえいえもう、おにさんからは、それはわかりやすく、ゾンビ部分についてのお気持ちは伝わっております(笑)。
いつもほんとありがとうございます。汗
| もりいくすお | 2020/02/02 11:09 AM |

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