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小説「怪異談 忠臣蔵」19

小説

怪異談 忠臣蔵 

〜ゾンビが出てくるやつ〜
(連載19)
 

 

この作品はフィクションです。文中に出てくる名称と、実在の個人名、団体名とは一切関係がありません。

本編には、暴力的なシーンが含まれてございます。
また、たいそう昔の設定なので、現代では不適切と思われる表現が含まれることもございます。
あらかじめご了承の上、ご覧くださいませ。  

※文中の「のろま」とは、ゾンビのことでございます。
 

 

++++++++++++++++++++


 

 

 十四 出立

 

 待ちに待った、元禄十五年十二月十四日。

 辛酸ここに一年十ヶ月。

 いよいよ討ち入りの当日。

 月は変わっても日は同じ、故・内匠頭長矩公のご忌日。

 亡君の怨霊を慰むべきときがやってきた。

 この日は夜来から、卍ともえと雪が降りしきり、江戸府中は見渡すかぎりの銀世界。

 

 赤穂浪士たちは、手はずに定められた通りに三々五々、本所林町の堀部親子の浪宅や、同じく本所四つ目にある仲間の浪宅、相生町の米屋(これも仲間の店)に集まった。

 夜半九つ頃、弥兵衛や安兵衛たちは、党中の計略通り、戦闘で慣れきったのろま退治の時の黒小袖に身を包んだ。

 両襟、両袖につけた白い木綿の布に「浅野内匠頭家来なにがし 享年なん歳」と袖印をしたため、半弓、薙刀、くだ槍、手槍など、各々武器を持って支度を整えた。

 皆の支度がひと通り終わると、ホリと母・たねが酒肴を整えた。

「これは菜鳥の吸い物!」

 今宵の門出に「名を取ろう」と洒落た、菜と鴨の吸い物。

 一同は喜んでそれをたいらげた。

 

 かねて打ち合わせの時刻となり、おのおの出で立つ時となる。

 皆が傍らを通り抜ける中

「さあ、いよいよこれから、冷光院様のご無念を晴らすため臣なる道を尽くすつもりだ。不憫だが、前世の宿縁と諦めてくれ」

 別れ際に安兵衛はホリにそう言った。

「あっぱれなお心、泉下におわするお殿様も、さぞかしお喜びにございましょう」

 ホリはにっこり笑った。

「父子打ち揃ってこの大事に加わったことは、末代までの家門のほまれです」

 なにか見繕って、立派な言葉をかけようとしているホリに、安兵衛は

「短い間であったが、よく尽くしてくれたな…。礼を言うぞ。堅固で暮らせよ」

 優しい言葉をかけられて、ホリは表情を歪ませると、これが今生の別れになるのかと思わず知らず、こらえていた涙を、ポロポロと流した。

「これを。今宵のはなむけでございます」

 ホリはそういうと奉書紙の包を差し出した。

 それを受け取ると安兵衛は、義理の母、弥兵衛の妻であるたねに向きなおり

「子たる道も尽くさず、お別れを致しまする不孝の段は、幾重にもご容赦くださいますよう…」

 たねはニッコリと、黙って安兵衛を見て頷いた。

 幼い時に実の母をなくした安兵衛と、若くして実の息子をなくした堀部夫婦との相性は、これまでたいそう良かった。

「めでたき門出に涙は不吉じゃっ」

 弥兵衛が割って入った。

「笑えっ」

 無茶な号令に四人は

「うふふふ」

「あははは」

 と、せき来る涙を笑いに紛らわせた。

 いつもの堀部家の戯れ。最後の戯れである。

 

 切戸を開けると降り続いた雪はすっかりやんで、月が寒月中空に冴え渡り、こうこうと積雪の上を照らし、真昼のように明るかった。

 道は凍って足場も良い。

 

「達者で暮らせ」

 弥兵衛はぶっきらぼうに一言だけ家族にそういうと、仲間の集まる蕎麦屋に向かって歩き出した。

 途中、安兵衛がみちみち紙包みを開いてみると、一握りの黒髪と、赤い緋縮緬の扱き帯の布ぎぬが入っていた。

 これぞ高田馬場のえにし。

 安兵衛が堀部家に入る前、高田馬場の決闘において、見物のホリから「たすきに」と扱き帯を差し入れられたのが、出逢いのキッカケであった。

「ホリ。かたじけないぞ…」

「思えば浮世は夢であるのう」

 弥兵衛が独り言を言った。

 

 

 

 

 十五 討ち入 

 

 この日まで、先だって清水一学が言ったとおり、憑依されているのは吉良上野介ひとりだけなのか、それとも邸内は中野の犬屋敷のように、のろまでいっぱいなのか?

 …蓋を開けてみるまで、まったくわからなかった。

 新宿騒動から三年近く経っており、赤穂浅野が改易になって、一年十ヶ月。

 この数カ月の偵察のうちでも、これといった異常はない。

 もっとも、吉良の姿を見知った仲間は、ひとりもいなかったが…。

 つまるところ、吉良邸内は、清水一学ほか、手練れの剣豪が待ち構えているであろう、という予想があらかただった。

 それでも、月命日が討ち入りの日となったのも、亡君のお導きと、みな武運を信じきっていた。

 

 出動した一味の同士の数は四十七人。

 

 時刻は寅の上刻。

 吉良の屋敷に到着した四十七名は、東西に別れ、表門隊二十四人と、安兵衛がいる裏門隊は大石内蔵助の長子、時に十五歳の年若な主税(ちから)を大将として、二十三人から入り込む。

 表門の合図を待ってから、裏門隊が突入する手はずで、門を大鎚(掛矢)でぶち壊そうとする担当が、今か今かとその時を待ち受ける。

 すると不意に通用門が中から開いた。

 ヒョッコリ出てきたのは門番であった。

 赤穂浪士を見てびっくりしていたが、浪士たちもびっくりした。思わず安兵衛が

 「神妙にいたせ。我々は亡君・浅野内匠頭家来…」

 と、静かに言いかけたところで、みなまで聴かず門番が「お助けを!」と言って、邸内に引き返すのかと思いきや、いきなり安兵衛に飛びついてきた…が、安兵衛は咄嗟に雪の上へ張り倒して、しがみつかせなかった。 

 まさかの行動にあっけにとられていると、すぐそのあとから、目を真っ赤にした灰色の面相の男がのっそりと出てきた。

「あッのろま!」

 言うが早いか、安兵衛はのろまの腹を思い切り蹴って、邸内に押し戻した。

 裏門隊二十三人は、近くの者と顔を見合わせて、無言のうちにじゃっかんの作戦変更を承知した。

 まずは門を打ち砕くのをやめる。

 

 しかし、もうひとつ状況が飲み込めない。

 ふだんから吉良邸はこういう状況なのか?

 それとも赤穂浪士が来るということを察して、番犬のごとく、かくれのろまでも解き放したのか。

 

 一同は小さな通用門から次々に門内になだれ込んだあと、すぐにあとをピッタリ締めた。 

 堅牢にしてのろまを封じ込めるつもりだ。

 さてこそ庭には、あっちこっちでふらふらしているのろまがいる。

 それが赤穂浪士突入の物音に、一斉に振り向いた。

 襟首を掴まれて邸内に戻される、先ほどの門番は

「どうかお助けを!」

 と、抵抗をした。

「心配いたすな。お前たち下郎の関係したことではない。」

「なんの、あたしが怖いのは、のろまのほうなんで。」

 聞きたいことがあったが、男は門から出られないと知るや、浪士の手を振り払って、こけつまろびつ、庭の奥の方へと駆けて行った。

 半弓に手をかけたものがいたが

「かまうな」

 と安兵衛が言う。

 

 

 

 

〜つづく〜

 

 

●<小説「怪異談 忠臣蔵」18はこちら

小説「怪異談 忠臣蔵」20はこちら>●

 

 

◯< いっとう最初はこちら。

 

++++++++++++++++++++

 

〜解説〜

 

 空前のパロディ小説。

 

さあ、いよいよ討ち入りでございます!

 

2月のリリースに季節感もなにもあったものじゃございませんが、とはいえ四十六士のご命日近くでございますので、功徳になったらいいなあ。

お話はこれからが面白くなるわけですが、なんとなんと、お時間がやってまいりました。


 

更新はだいたい、土曜日とか日曜日です。

 

 

どうぞごひいきに!

 

 


もりい

| もりいくすお | - | comments(2) | - |
コメント
さあ、大変だ。こうなると吉良を討つのとのろまを退治するのと、どちらが目的かわからなくなりそうだぞ。
| ゆらおに | 2020/02/08 1:51 PM |

おにさん
おおいそがしですなっ!!!
(笑)
| もりいくすお | 2020/02/08 7:54 PM |

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