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小説「怪異談 忠臣蔵」20

小説

怪異談 忠臣蔵

〜ゾンビが出てくるやつ〜
(連載20)
 

 

この作品はフィクションです。文中に出てくる名称と、実在の個人名、団体名とは一切関係がありません。

本編には、暴力的なシーンが含まれてございます。
また、たいそう昔の設定なので、現代では不適切と思われる表現が含まれることもございます。
あらかじめご了承の上、ご覧くださいませ。 

※文中の「のろま」とは、ゾンビのことでございます。
 

 

++++++++++++++++++++


 

 

 おりしもそこへ、表門のほうからとうとうたる陣太鼓の合図が聞こえてくる。

 続けて長屋の雨戸をカスガイで止める音も聞こえてきた。

 ほんとうはこの音こそ、突入の合図のはずであった。

 表門のほうでのろまは、どうした按配なのだろうか。

「手向かいいたさん奴は捨て置く約束でしたが、手はずどおり、のろまは斬ってよろしいな」

 この討ち入りは、松之大廊下の一件を発端として、赤穂浅野が大変になっても、なんの諸表明もしないで涼しい顔の、のろまになった主人をひた隠す、吉良家の言語道断の致し方に対して仕掛けている「戦」である。

 女子供に目なかけそ、逃げるは追うな。歯向かってくるものは皆、容赦はいらぬ。

 この時ばかりは安兵衛とて、なにも迷っていない。

「おのれッ」

 吠えるように叫ぶと、安兵衛目の首根っこめがけて襲ってくるのろまめがけて、ギラリと引き抜いた関孫六、小鬢から顎にかけて斬り下ろした。

 ばったり倒れる吉良邸附人ののろまを眼下にして、安兵衛は自分の中に甦る久しぶりの、「人を斬る手応え」をジットリと感じながら、先に進む。

 敵と渡り合えば武士として名誉もあろうが、ここでのろまに食いつかれて果てたとなれば、犬死にである。

 仲間が大納得して安兵衛に続いた。

 

 またひとり、玄関の戸が開いて、中から寝巻き姿の丸腰の者が顔を出した。

 赤穂浪士一党を見るや

「助かった!赤穂浅野だ!中でのろまが…」

 と、その男が言いかけて、安堵したのもつかの間、すぐに表情がこわばって中のほうを指さしたまま「あ。」と動作が固まった。

 目の前の黒扮装(いでたち)の連中は、のろまの鎮静に来てくれたのか、それとも自分たちを殺しに来たのか、混乱したのである。

 マゴマゴしていたその男は、浪士の見ている前で背後から襲いかかってきたのろまに、首根っこを食いつかれた。

「ぎいいいっ!」

 邸内の者の慌てようから、どうやら今夜にかぎって間も悪く、一党が寝静まっているところへどういうわけか、憑依が広がっていったように見える。

「返り血に気をつけろっ」

 男とのろまの傍らを何人かが通りすぎ、ドカドカと邸内に入って中から、雨戸をつぎつぎに打ちはずした。

「やれやれ」

 通りすがりの浪士が、溜息混じりに太刀の反りに左手を添え、男の首に食らいついてるのろまの眉間に、切っ先を当てると

「エイッ」

 と、一突きしてのろまを倒した。

 

 

 

 

 上杉家の附人や吉良方の用人が、待機してると思われる長屋の戸口や雨戸を、浪士の何人かがカスガイで打ちつけながら

「いま邸内にのろまが大勢現れた!決して出てはならんっ」

 と叫ぶと中から

「…かしこまってござる〜…」

 と間の抜けた返事がして、ついに夜明けまで百人ほど待機していたと言われる家来たちは、蟄伏して誰も長屋から出てこなかった。

 

 暗い邸内を、間ごと間ごとに火の着いたろうそくを燭台に灯して、壁に突き刺して回っている浪士の前に勇ましい声がして

「ちょこざいな赤穂浪人!いざや来たれっ」

 と決闘を申し込んでくる者がいる。

 出会い頭に太刀を振るって渡り合い、二打ち三打ち打ち合ったが、吉良の用人は浪士の太刀先に切り立てられた。

 そこに別の浪士が来て言う

「気の毒だが、斬ったものはかならず額やこめかみに一刺しを忘れるな。やがて起き上がってくるのだから」

「いやしかし、此奴はのろまではないぞ」

「息のあるうちにのろまに食いつかれたら同じことだ。ええい、なんでもいいから」

 と、その浪士は倒れている男にとどめを刺した。

 この咄嗟の意見は、賛否を二分した。

 斬られたからといって、必ずのろまに襲われるとは限らない。
 のろまに襲われなければ、のろまにならない。

 

 大戸を十八貫五百目の大槌で、微塵に打ち砕いてだんだんと奥へ進んでいく安兵衛の前に、大太刀を構えもせずブラリとさせて、立ちはだかるものが現れた。

 隙だらけでどこからも打ち込めるが、これはかえって恐ろしい。

「さては八方破れの構え」

 しかし暗闇に目を凝らしてみると、この男の着物には大量の血が付いている。

「また、のろまか」

 思わぬ肩透かしに気を緩ませたその瞬間、その男がやおら討ってかかってきた。

「おのれ赤穂の痩せ浪人ッ!」

 不意を食った安兵衛は、それを咄嗟に大槌の柄で受ける。

 スパリとふたつに切り折られる柄と槌。

 安兵衛、大槌を捨てると

「えいっ」

 と片手殴りに延びを打って払った。

 相手はそれをヒョイとかわそうとしたが、左の小手を切り落とされた。

「あっ」

 とたじろぐところを踏み込んで、バラリズンと切りおろす。

 そこいらに倒れている仲間の血糊をつけて、のろまの「ふり」をして出てくるものまでがあるものか。

 ともかく想定外の珍事は、よけいな判断を強いて、周到に準備した計画にかずかずの面倒を増やした。

 激しく剣を合わせているところへ、のこのこと割り込んでくるのろまもいた。

 その時ばかりは、一瞬吉良の附人と赤穂の浪士が、息を合わせて邪魔を排するという、一風変わったやりとりもあったものだった。

 あれやこれやとなかなか手間取っていると

「上野介殿、お出会えそうらえ!我らは浅野の浪士。亡君の意趣を継がんがため推参いたしてござる!」

 燗が高ぶった浪士の誰かが思わず叫んだ。

 

 奥殿をこころざして進み行き、屋敷も中頃と思うほどにやって来ると、縁側どおりの廊下で身の丈六尺もあろうかという、鴨居にも背をくぐめるほどの巨漢(おおおとこ)と鉢合わせた。

 片足を引きずってこれまた様子がおかしい。「どっちか!?」

 と声を出したのは、槍が自慢の浪士であった。

 浪士が槍をしごいて、つっかける。

 柄にもなく、身軽にヒョイとかわした大男は、槍の浪士に向かって一太刀振りおろす。

 浪士も軽くかわす。

 そのとき大男の向こうから人影が走り寄ってきた。

「やまっ!」

 同士の合言葉を叫んだこの男は、表門隊の片岡源五右衛門であった。

 浅野内匠頭と最後に会った、あの小姓頭である。

「かわっ!」

 安兵衛が返す。

 考え方の違いを持った浪士も、いまはまとまって討ち入りをしている。

 亡君を想う者。家を想う者。矜持。中にはいさましい活躍によって、再仕官を思い浮かべる者さえある。

 さて、表門隊の片岡が裏門隊の安兵衛と、屋敷の半ばで鉢合わせるということは、屋敷の中での吉良上野介捜索が、かんばしくないことを意味していた。

 のろまの邪魔立てに手こずって、肝心なことが後回しだ。

 

 

 

 

 大男は、前後を睨みつけながら「うあっ」と血反吐を吐いた。

 安兵衛は、蝋燭の灯にこの男の脛がかじられている傷が浮かんだのを見て、ハッとなった。

 その隙に槍の浪士が、拳下りにサッと突く。

 見事な一突きは相手の胸板をとらえたが、大男は突かれたまま、槍の浪士をゆっくりと睨みつける。

 その目はみるみる真っ赤に充血していった。

 大男は胸に突き刺さった槍を、抱えるようにグッと掴むと、自分を軸に槍の浪士を横へ「エイ!」と振り払った。

 浪士は雨戸を突きやぶり、もんどりをうって、庭の雪の中に放り出される。

 が、浪士も槍に食らいついて離さない。

 槍で浪士とつながった大男も、足を踏み滑らして追うように庭に落ちた。 

 ここまで鍵付き槍がグリグリと身体に食い込んでは、とても耐えられないはずなのに、大男はムクムクと立ち上がると、槍を胸に突き刺したまま平然と上段に構えて打ってかかる。

 槍の浪士はそれをかわしながら、しっかりと食い込んだ穂先を前後に動かしながら、急所を捉えようとする。

「こんな槍術もないもんだ」

 手こずっているところへ、通りかかった事情のわからない同士が助太刀をと、大男の背中を切りつけるがびくともしない。

 反対に、のろまの振り回した拳にしたたか顔面をぶつけ、目を回してしまった。

 続けて屋根の上から、大男に向かって半弓の矢を射かけるものもいる。

 矢が刺さっても、なますのようにズタズタになっても戦っている大男の姿が、なにやら次第に天晴に勇ましく見えてきた。

「ひるむなっのろまだ!眉間を割れっ」

 誰かが叫んだが、この大兵の首に向かって上へ切りつけても、なかなか骨に届かず、そこら中に耳が飛び鼻が飛び、顔ばかりが玉鋼(たまはがね)のようにズタズタになっていく。

 返り血が降ってくるのが、いちいち始末に悪い。

 身体中を血に染めた大男は、傷口からドッと血煙をあげながら、胴体に通ったままの槍をグググといっそう手繰り寄せて、槍の浪士に近寄ってくる。

 とっくに穂先は背中を突き通している。

「ええい。いつまで手間どられるぞッ」

 安兵衛は気を焦(いら)ち、後ろから飛びかかると男の脚を片方ずつ、大喝一声切り払った。

 大根のように転がる大男の両足。

 それでも振り返って安兵衛に向かって大刀を振りかざす。

 身の丈がうんと低くなったのでその隙に槍の浪士が刀に持ち替え大上段から

「ヤッ!」

 と脳天に斬り下ろした。

「◯!」

 バックリ頭がふたつに割れた男は、言葉にならない声を発しながら、二言と言わず相果てた。

 

 

〜つづく〜

 

 

 

●<小説「怪異談 忠臣蔵」19はこちら

小説「怪異談 忠臣蔵」21はこちら>●

 

 

◯< いっとう最初はこちら。

 

++++++++++++++++++++

 

〜解説〜

 

 空前のパロディ小説。

 

さあ、いよいよシッチャカメッチャカでございます。

お話はこれからが面白くなるわけですが、なんとなんと、お時間がやってまいりました。

 

大男にやりを突き刺す浪士は、初稿ではその時の安兵衛さんのバディ・前原伊助でした。

でまぁ〜、いつの間にか安兵衛さん大鎚をもってるし、なかなかいいかげんですみません。


 

更新はだいたい、土曜日とか日曜日です。

 

 

どうぞごひいきに!

 

 


もりい

| もりいくすお | - | comments(2) | - |
コメント
いや、もう、大混戦ですから、多少の矛盾には目をつむりましょう(笑)。
「用人」とあるうちの何カ所かは「付け人」の誤植だと思われます。
| ゆらおに | 2020/02/15 3:37 PM |

おにさん
うわー。目をつぶっていただくよりご指摘いただくほうがよほど、身のためでございます。
さっそく修正つかまつりまする。
ありがとうございます。
| もりいくすお | 2020/02/15 8:28 PM |

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