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小説「怪異談 忠臣蔵」21

小説

怪異談 忠臣蔵 

〜ゾンビが出てくるやつ〜
(連載21)
 

 

この作品はフィクションです。文中に出てくる名称と、実在の個人名、団体名とは一切関係がありません。

本編には、暴力的なシーンが含まれてございます。
また、たいそう昔の設定なので、現代では不適切と思われる表現が含まれることもございます。
あらかじめご了承の上、ご覧くださいませ。  

※文中の「のろま」とは、ゾンビのことでございます。
 

 

++++++++++++++++++++


 

 

 それから、いつまでたっても肝心の吉良上野介が見つからない。

 一堂は気が気ではなかった。

 何人かの浪士が物置から、空き俵を引っ張りだし、焚き火を始めてしばし当たった。

 遠くではチャンチャンと斬り結ぶ、丁々発止の音が聞こえている。

 斬り合って庭の泉水に落ちた浪士が、ブルブル震えながらやってきた。

「おぉ良い物があった。衣類が濡れて重くてかなわぬ」

「まだ上野殿の在処はわからぬか」

「こう取り囲んだのだから逃しっこない」

「それさ。隣家では高張り提灯を塀越しに掲げてこちらを照らしてくれている。あれは味方だ。塀を越えて逃げれば、匿うことはあるまい」

「ほんとうか。隣家が…」

「本多家、土屋家、我ら推参の由を届け申しおいた際に、どちらも『武士はそうありたいもの。ご不自由の品物あらばなんなりと』と…」

「…我ら忠義の一念を、ご同情くださったのだなあ」

「こうしてはいられぬ」

「うむ。近松様。お先に御免ッ」

「うむ。火の用心は任せろ」

 

 安兵衛が廊下をさらに突き進むと、外に父・弥兵衛が屈強な男に襲われているのが見えた。

 「いざ、かかってまいれ!」

 言ったとたんに弥兵衛、雪に足を滑らせてツルリと仰向けに倒れた。

 しめたと踏み込んだ男は真っ向に振りかぶった。

「父上!」

 安兵衛は、飛び込むが早いか「エイ!」と横に払った一文字。

 見事に胴を斬りこんで、血煙のうちに男は倒れた。

「お怪我はございませんかっ」

「タワケめ!アレは立って戦うには足りぬ相手だから、寝て戦っていたのだ!よけいなことをするな親不孝者!」

「それはそれは…」

 ものすごい強情と負け惜しみに、安兵衛があっけにとられていると、

「安兵衛!」

 見るとそこには袴の股立を高くとりあげて、タスキを十文字に綾なし、布をたたんで鉢巻をした清水一学が立っている。

「一学…」

 ゆっくりと、両手左右に刀を抜いた一学。

「安兵衛…勝負だ!」

 いまは逃れぬ敵と敵。

「心得たり。ここは俺が引き受けました。父上。少しも早く上野めを!」

「しからば。…ぬかるなよ安兵衛」

 弥兵衛はふたりの男の気迫から、何かを読み取り、立ち別れる。

 

「たあっ!」

 一学は右剣左剣の二刀を振るって、電光石火の早業。

 安兵衛が右剣を払えば、左剣がつけいる。

 切ってかかるのを、一上一下打ち合った。

 両者互角に打ち合った間髪に、一学が一件ほどの間合いを作って、荒れた息で話をしだす。

「安兵衛ッ。尊公だから話しをする。

 吉良様はな、上杉家の逆臣に、のろまの毒を盛られたのだっ。…毒を盛った奴はもういまは仏様だ。扱った毒がどうかして、自分に回っちまったのだろう。御主の罰(ばち)。天の罰(ばち)じゃ」

 安兵衛は正眼に構えてジッと聞く。

 先だって言いよどんでいたことはこれか。

「ともあれ米沢様(上杉家)には五代目吉憲様があらしゃる。…そういうことらしい。わしは、わしはもう…この勝手次第なアリサマがわしにはもう、もう小癪に障ってたまらぬ!腸が煮えくり返るようじゃ!」

 悔しそうに独白すると、一学は阿修羅のような勢いで、無二無三に切ってかかってくる。

 安兵衛があとへあとへ下がって、防戦一方になってるとき、一瞬の隙をついて切り込む下をかいくぐり、振り返って打ってかかる一学の胴体半ばを横一文字に引き払った。

 バサッと真っ赤な血が白雪を染め、ドウと倒れた清水一学。

 思わず安兵衛は声をかける。

「一学ッ」

「みごと…」

 顔にかすかな微笑みを浮かべ、続けて虫の息で、まだなにやら言おうとしている。

 安兵衛は、一学の体を少し抱き起こしてやった。  

 悔しさのあまりか、苦痛によってか、起こされた一学の頬に、涙が一筋ハラリと伝った。

 しかし安兵衛にとっては、いまさら他家の事情を聴いてどうなるわけでもなく、究明する筋合いもない。

 が、ともかく一学の忠義が、その一件を許せなかったのであろうと、哀れに思った。

 一学のまなこが弱々しく安兵衛を見上げて

「未練は残るが潔く、大殿様のお屋敷で斬死(きりじに)をするとしよう」

「ご隠居はどこにいるのだ?」

「…足に、…足に枷をされて…」

「カセ?どこかにとらわれているのだな。」

「…目を離している隙に小坊主が…」

「逃した?屋敷内にか?」

「…寒い…」

 寵愛されていた小坊主が、主人を不憫に思って、枷を外したのが運の尽きるところ。

 小坊主は途端に、すっかりのろまに変化していた吉良に、直接噛みつかれた。

 一学が小坊主の愚行に気づいた時は、外された枷だけが残されて部屋はすでにもぬけの殻だったようだ。

 若い者の毒の回りは速く、小坊主はたちまち変化し、フラフラと部屋を出てぐっすり眠っている吉良邸の用人や上杉の附人に、噛み付いて回ったようである。

 愁傷千万なことに、吉良邸はこの夜、ふたつの夜襲を受けているのだ。

「しっかりしろ!足枷をしていたのは寝所か?それともどこか…」

「俺は、冥土にてご奉公いたす……」

 一学はそう言うと、そのままこと切れた。

 

 

 

 

 こころざす吉良上野介が行き方しれずのまま、討ち入りから一時ほど経っていた。

 玄関、次の間、大広間、茶席、庭前…八方に分散し、屋敷の中にうろつくのろまは、すっかり根絶やしにした。

 あらためて決闘を挑む用人の姿も、無くなっていた。

 吉良の状態について、事情が伝令によって仲間に知れ渡る。

 怨敵が屋外に逃亡した気遣いはなさそうであることはいいとして、どこかですでに始末されている場合もあることが、同士たちの気がかりとなった。

「探しだすのがまことに厄介。のろまには気配が無いでのう」

 誰かがそう言って舌打ちをした。

「くたばっておらんければそれで良いっ。我等の手で討つことこそ肝要」

 お互いに、いまさら言っても到底、詮無いこと。

 武運も尽きたかと心を砕いて、いかんと思いながらもついうっかり愚痴になる。

 打ち漏らした場合は、全員その場で切腹が約束されていたが、そうした幕切れは誰一人望んではいない。

 気は急くが、埒があかないまま、時はいたずらに過ぎていく。

  

「安兵衛殿、ご覧じろ。奥に引き戸のような…」

 台所で同士が安兵衛に声をかける。

 隠れ座敷かと、注意深く戸を開けて、黒暗暗とする内部を龕灯を照らしつけてみると、そこは物置のような陰気な部屋だった。

 炭俵などが、ほかの細かい道具と一緒に散乱している。 

「そこは、もう見たぞ」

 誰かが背後から声をかける。

 それでも両人は、部屋の中に進んで羽目を叩き、床に散らかった道具を足で払いながら中へ進む。

 奥に転がってる炭俵のひとつが、ひっくり返った長持の上に乗っかっていた。

 同士が上の俵をどかすと、軽くなった長持がガタガタと動きだした。

 明らかに、なにかにかぶさっている。

 安兵衛と同士が目と目を見合わせて合図をし、同士が手槍をリュウリュウと引き扱き、切っ先を長持にピタリと合わせて下段に構える。

 安兵衛が力任せに長持を蹴っ飛ばすと、その下から、白綸子の寝間着姿で総髪の、眼の色の変わった老人が飛び出した。

「得たりっ」

 と同士が、咄嗟に一足踏み込んで繰り出す槍先を、老人の右腿へグサリと突きこんで手許に引く。

 老人がよろけたところを安兵衛が蹴り倒し、地べたに押し伏せて、額と背中の傷を見るや、十中八九これが吉良に違いないと思うと、手際よく両手を縛り上げた。

 老人はここに迷い込んで勝手に炭俵の下敷きになったのか、誰かが彼を守るために長持をかぶせたのかは、最早わからない。

 ともかく見つけた。やっと見つけた。

「吉良様に相違なかろう」

 同士が襟に下げた呼子をピリピリと吹き出した。

 

 

 

 

 小奴(こやっこ)を引っ立ててきて面通しをし、間違いなく老人が吉良上野介であることを確かめると内蔵助は、同士ふたりに腕と肩を押さえつけられている吉良に頭を下げ

「主君・浅野内匠頭儀は、尊公に対し刃傷つかまつり、事果たさずして当日切腹仰せ付けられ、五万三千石は改易。主君の存意を継いで貴君を怨みたてまつる。尋常にご切腹を願いたてまつる」

 と、挨拶をする。

 百も承知だが、内蔵助の言葉に、相手からは一言もない。

 そんなことよりも、吉良と見えるその老人は、自分を取り押さえている肩にかかった赤穂浪士の手を、亀が餌を求めるように首を伸ばして噛み付こうとしている。

 四位の少将としての高貴さは、そこに微塵も感じられなかった。

「ではご無礼を加え申す段、ご容赦くだされッ!」

 そういうと、こめかみにトドメの一刀を突き刺した。

 クタッとなる吉良老人の身体。

 七つの鐘が遠くに聞こえ、あたりの鶏もその夜明けの間近を告げる。

 

 おわった。

 

 年月を重ねること一年と十ヶ月。やっと本望を遂げることができた。

 血気の面々の中には、感極まって泣いている者もある。

 一番槍の浪士が、斬って落とした吉良の首級を、白綸子の小袖に包み、槍の先につけて高く差し上げた。

 ひとりも欠けていない四十七士は、勇ましくかちどきを上げると、隊伍整然として主君長矩公を葬った高輪の泉岳寺へ、揚々と引き揚げていく。

 その間、一学が真相?を吐露した上杉家は、実は早々と討ち入りの急報を受けていた。

 しかし「国乱の元になる」と言う理由で、吉良家へ応援をいっさい出さなければ、泉岳寺へ引き揚げる赤穂浪士を追いもしなかった。

 

 

〜つづく〜

 

●<小説「怪異談 忠臣蔵」20はこちら

小説「怪異談 忠臣蔵」22はこちら>●

 

◯< いっとう最初はこちら。

 

++++++++++++++++++++

 

〜解説〜

 

 空前のパロディ小説。

 

先回も申し上げましたとおり、謎の多い赤穂事件で作家がデタラメをいたしますと、必ずとばっちりで割りを食うキャラクターというものがございます。

 本作品では、面目ないのですが、米沢藩に申し訳のない疑惑を背負っていただくことにいたしました

 劇中で一学が疑惑に思っているのは、キラさんを疎ましく思っていた家老…ということで、その人はすでにお亡くなりになっている、と言います。

 赤穂事件で討ち入りの時に、上記のようなポストの登場人物って…なんつって。

 

 次回はいよいよ、最終回でございます。


 

更新はだいたい、土曜日とか日曜日です。

 

 

どうぞごひいきに!

 

 


もりい

| もりいくすお | - | comments(2) | - |
コメント
あはあ、もっと「のろま」たちが暴れるかと思ったら、案外でした。寝たまま戦う弥兵衛老など、正統的討入場面でしたね。吉良さんだけ。
| ゆらおに | 2020/02/25 6:20 AM |

おにさん
そこなんですよ!
ゾンビ好きのセオリーといたしましては、外界とシャットアウトした空間では、そこでゾンビを根絶やしにするか、人間が全滅するかの二択でして。
忠臣蔵だと、あっさりゾンビを一掃するしかないんですが、穴の空いた塀から少し逃してもよかったかなぁ〜。
| もりいくすお | 2020/02/25 12:42 PM |

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