やまがた忠臣蔵(2)
今回、山形に参りました主目的。
それは「中山安兵衛の歌舞伎を観る」で、ございます。
いつであったかSNSに地芝居・黒森歌舞伎が「高田馬場十八番切」という演目をおやりになる(本劇団には17年ぶりの出し物)という拡散があって、そもそも地芝居というと珍しい演目がかかることが多く、先日も「子ども歌舞伎」で立花左近がどっかでかかってて、あたしはそれを見そこなっておりますので立て続けにいろいろ見られなかったとあっては忠臣蔵マニア「くすや」オーナーの名がすたると、勇んで出かけたわけでございます。
地元の人が演じる地芝居は、もともと江戸時代に神様に奉納するために伝わったインディーズの歌舞伎で、よく落語で村芝居みたいに出てくるアレで、地域の民俗芸能。農民歌舞伎という言い方も今回の黒森歌舞伎公演の場内アナウンスで説明しておられました。
もちろん落語みたいにふざけたものではなく、演者の皆さんはたいへん真剣で、すごく素敵でした。
国立劇場制作部の大木さんと飲んだとき、小芝居は各地でいろんな形で産まれ、また進化していたようで、講談を原作にしていたり地方まわりをしていたり義太夫ではなく浪曲で演じたりとバリエーションもあったというお話をうかがいました。
本が残っているようなものはプロがコンテンツとして取り上げ上演することもあり、「矢作の鎌腹」や、2018年3月に65年ぶりにかかった「本蔵下屋敷」などがあります。
さて
マエノリで鶴岡に泊まり、楽しみにしてた朝ごはんはいろいろそつのないアパホテルさん。しかし定番のソーセージがありませんでした。
でもまっ…美味しかったし、枕が加齢臭じゃなかったので合格!
開演が13時半からということで11時のチェックアウトはちょうどよい。
となり町とあって30〜40分で酒田へ。
後輩Mが朝飯食べなかったというので、昼を早めに!
山形はそばの生産地としても有名で、牛とともにそばをフィーチャーしてる看板をよく見かけますので、んじゃあランチは評判のそば屋としゃれこみましょう!
後輩Mがリサーチして評判の手打ちそば・田毎(たごと)さんへ!
▲いえ〜い!!
▲はしゃまーーーっ…
この旅、なっかなかの空振り度合。
ま、とにかく会場のそばまで行ってみよう。なんかあるだろう!
▲酒田市民会館
会館前の無料パーキングは満杯で、誘導をしてるおじさんが近くの駐車場を教えてくれた。そこの駐車場のチケットは会場で料金をチャラにしてくれるという。
さぁ〜てこのおじさんの案内で一苦労。なんせ実在しない駐車場の名前を教えてくれたもんだから(<もちろん悪意はなく、ただの言い間違い)、探せど探せど駐車場が見つからず、同じ所をグルグル…降りてはあちこち駆けまわり…。いや、そこらへんにいくらもある有料駐車場でもいいんだけどせっかく会場と提携してるならお世話になりたいし。
で、また車で会場へ戻ると「わがたがっす?◯◯パーキング」(方言:イメージ)
さっきと言ってる名称が違うじゃん〜!
とは言わず、後輩Mと笑顔のまま固まっていると
「あっクルマ一台でたでた!入れてけらっしゃい」(方言:イメージ)
ということで、まあ、ヨシと。最初に来た会場前のパーキングにめでたく駐車。
さっいろんな空振りがブンブンと続いたんで開演の時間が思いのほか差し迫っております。
駐車場を探した際、ついでに界隈にいろいろなお店の存在もチェックしたので、会場のノボリに協賛で名前が載ってた「レストラン欅(けやき)」さんへ。
これがなんというかもう、いっしゅん高額料金を取られるのでは!?と思うようなおごそかでゴージャスな雰囲気でなによりもそれが、あきらかに昭和から続くモダンなようす…を、あたしも後輩Mも写真に撮らなかったんだなぁ〜!
そこで後輩Mはハンバーグランチ、あたしゃヘルシーランチをたのんだんですがあたしのは揚げたホウボウにすごくドッサリ野菜(withドレッシング)がかぶさってる料理でした。
で、コーヒーとケーキを待ってる間にいよいよ時間がやばくなってきたんで(そっかぁ。ゆとりがなかったんでふたりとも写真撮ってなかったのだな)あとはキャンセルして出ようとしたらケーキを親切におみやげにしてくださいました。こういうところが旅に出てきてほっこりするうれしいエピソードですよねえ。
ああ…もう一回ゆっくり行きたいなあ。
あとで調べてみると欅さんのそれこそ真裏が、22.5ヘクタールを焼いたあの「酒田大火」(S51)の火元なのだが、風向きのおかげか見事に延焼を間逃れている。ということはほんとにすごく昭和(30年代の高度成長期辺りからある?)なお店だったのだろう。(いろいろ要確認)
▲おおよその延焼ゾーン。
いよいよ会場に参りますとすっかり見られなかった前半部、昼からの「少年太鼓」「少年歌舞伎」にご出演(だったのかな)のお子さんたちがロビーでなにやら声を張り上げておりましてご案内中(後述)。
なんかちょっと圧倒されて内容を冷静に聞かずに避けるようにすごすごと客席へ 。
お客さんの入りは上々。一階席がほぼ埋まっております。
あとで調べてみますとこれでも観客動員が近年減っているそうで、お子供集が声を張り上げて頑張っていたのは黒森歌舞伎を盛り上げるために缶バッヂを売ってアプローチしようという運動だったのでした。
協力して差し上げればよかった〜。
さーもう、ワクワクしどうしです。
セトリを見るとなんだかもう、気になるところが何箇所もあるんですがとにかく早く観たい!
(たとえば六郎左衛門 妻 娘…て、なんだろうと思いました。そうしたら、ま、うすうす感づいてはおりましたがほんとは六郎左衛門 堀部弥兵衛 妻…と書くべきを端折ったものだからわけわかんなくなっていたのでした)
ちなみに山形新聞さんにはこの演目のことを「後に赤穂四十七士の一人となる堀部安兵衛の生涯を描いたもの」と堂々と間違えておりますがw(2018年3月現在)、ほんとは「中山安兵衛の幼少期から高田の馬場の決闘までを描いたもの」であります。
一幕目
「安之助母おてるあだ討ちの場」
上手(かみて)に太棹を持った曲師さんと義太夫をうなる出語りの二人組。ときどき録音(?みすうちかな。)になるが基本彼らが演奏。
ものがたりは未亡人(夫は切腹したと言ってた)を口説こうともみ合いの末に殺してしまう大道寺源十郎なるよこしまな侍が、その未亡人の子=誰あろう我らが安兵衛さんの幼少期・安之助にカタキを取られるというおはなし。
前の席のお母さんがちっちゃい子に「お父さん、やられちゃったねえ」といいながら観劇。なんか、ほんと、いやこれ、正しいなあ。なにこの風景!芝居の原点!?ほんものの「村芝居」「地芝居」。
お母さんがパシャパシャ写メ取ってるからあたしも追随しましたが、さすがにここに載せるのはやはり気が引けますのでお芝居のようすは「黒森歌舞伎 酒田市民会館 高田馬場十八番切」にてご検索ください。
20〜30分で終わると舞台転換を待つあいだ、唐突に抽選会が始まります。
係の人がチケットの右上にある番号を抽選箱から引いて、あたったらほうれん草を二束いただけます。
たったのしいっ!!!!! 先着7名!当たるかな!?
後輩M「当たるといいですね!いま葉ものは高いですからっ」
ところがま〜。ご高齢のお客さまが客席を立って舞台までいくのがしんどいのか、確認をしていないのか、あるいはいまやってることを把握されてらっしゃらないのか、会場は沸いてるのに当選番号をいくら発表してもなかなかどなたも出てまいりません。
ホワイトボードには誰も名乗って出てこない当選数字がどんどん追加されてまいります。
これかーっ!地芝居の自由度。すてきすぎる。
んま、なんだかんだでほうれん草は7人のラッキーな人達の手に渡り、あたしも後輩もここでは幸運には恵まれませんでした。
二幕目
「松平右京太夫屋敷 兜割りの場」
安兵衛のおじさん・菅野六郎左衛門が剣術指南をしている松平家で御前試合で出場し打ち負かされた村上兄弟に恨みを買うシーン。
試合に負けた村上兄弟はかくし芸と称して刀の目利き(鑑定)を始めるが、けちょんけちょんにけなした菅野六郎左衛門の刀が見事にカブトを真っ二つにして恥を上塗りし、「かくなる上は真剣勝負。高田馬場で待ってるぞ」と菅野に決闘を申し込むまでにいたる。
演者さんのカミシモの紋が無く、代わりに、紋の形に両面テープの跡があったりしてほんとにラブリー。
ところで一幕目から気になってたんですけど、ツケ(床に置いてある板に拍子木みたいのを、役者の動作などに合わせてふたつ打ち付ける裏方の「パパンッ!」という効果音)がひじょうに心細く、「ほんとは叩いちゃいけないんじゃ?え?いいの?」というようなフワフワしたものでした。これも、味w。
三幕目
「八丁目長屋の場・高田の馬場」
前半はのんべえ安(安兵衛)と隣に住むコミカルなおばあさんとの掛け合いで大いに観客を沸かす。近年の安兵衛がらみの忠臣蔵テレビドラマで完全にスキップされる(※01)のり屋のババアがいかに大切なキーパーソンか、クリエーターはここで観客が大喜びしてる様子を一度見てみるとイイと思う。そんなモヤモヤが場内の爆笑があるたびに湧いてくる。ちなみにこの芝居では「のり屋のババア」ではなく、おてつという飯炊きババアである。
(※01)…三谷幸喜の「PARCO歌舞伎 決闘!高田馬場」を除く。
安兵衛がおじさんからの手紙を読んで、講談ではババアの飯をおひつごと横取りしてかきこみ、すっ飛んで出ていく安兵衛さんだがここでは意外にもお行儀よくババアが用意したご飯をいただく。
しゃもじと納豆(でかい)を包装してるワラに「黒森納豆」と貼ってあった。
ここで感付けばよかったのだがパートナーの森井ユカ(雑貨屋スーパーマーケットのマニアで大借金して世界中を回る稀人)の著書によれば酒田の塩納豆は絶品だという。ギャグ的に使われてる黒森納豆もいろいろ種類があって、ああ!そういえばロビーで販売してたなぁ!なんだか気持ちに余裕がなかったのか、この度はなかなかロビーに落ち着かなかった。
いざ高田の馬場へという早駆けシーンでは観客席から「安兵衛がんばれっ」という掛け声も。
途中で縄のタスキをとおりがかりの娘(のちの奥さん)に呼び止められて彼女の扱き帯に取替え、鉢巻にかんざしをさして再出発。
でまあ、高田の馬場で18人(も出てきやしませんが)やっつけてめでたしめでたし。
中津川友範が陣幕の向こう側から襲いかかってくるシーンはここで見られるが、コレがルーツか?
▲黒森歌舞伎の座長・冨樫さん
いやはや豊かな時間でございました。
来年11月には日本とポーランドの国交樹立100周年を記念した初の海外公演も計画中だということで、頑張って実現させていただきたい。
さて、実は思っていたよりも(場面転換の時間も含めて)ランニングタイムが予想をオーバーしており、米沢に帰る車が少しスピードを出さなければ?というあんばいに。
本当はこれをもって米沢でクルマを返し、そのまま新幹線に飛び乗る予定でしたが後輩Mが車中においてハンドルを握りながら
「山形が気に入ったからあたしもう一泊して帰ろうかな」と言い出した。
このヒトえらいなと思いましたが、これがね、レンタカーを営業時間中に返せないから自分が残ろうとしてたんです。
サムライですなっ!え〜らいっ!!!!
あたしゃそれに気づかず、ノリで「あっじゃ、俺も!」とはしゃぎまして、なんだかまたいたずらに盛り上がる。
車中で宿を確保して、米沢に着くと案の定レンタカー屋さんは閉まっておりまして(翌朝返せば良い契約)、列車の切符を変更して、晩飯にまた米沢牛を食べに。
▲たよりになる後輩M。手ぐすねを引いております。
さ〜またこのお店がなかなかで、食べる気まんまんでコース料理に挑んでいた我々も「えっまだ出てくるの?コレで終わりのはずでわ?」といった具合に次から次に肉まつり。
メニューを見て把握していた内容と違う感じなので見間違えてたかなと。一度あらためて給仕さんに値段を確認するシーンもあった。
霜降りが好きな人にはたまらないでしょうが、脂の多さにふたりともグロッキー状態。
デザートのいちごシャーベットを楽しみに、ともかく出されたものはいただこうと後半は死力を注いだ。
ところがどっこい、実は「デザートが底をついてしまったのでお詫びの印に肉を追加してくれた」というご事情だった。
ぎゃふ〜〜ん!
ですよねえ!?流れ的にいい感じに締めと思われるようなもつ煮込みのあとからスタートの勢いのある山形牛や米沢牛が出てくるんですから。
ていうか、で、デザートが無い?というところに狼狽した我々は、余計にいただいているならお気持ちだけ…と、恐縮しつつホルモン類だけちょっと残しちゃって退散。(ま、21時頃うかがったからな〜)
帰路にあるコンビニでパピコアイスを飼い食いして宿で別れます。
▲ソッと追加されたお肉たち
翌日、汽車の時間まで地元スーパーのようすをはしごしながら(地元スーパーは「地元」散策に最適。森井ユカ推奨)、また地元ラーメンを食べて東京へ帰りました。
▲ヨークベニマルでラーメン。
自分で運転しての旅は初めてでしたがフットワークはいいんだけど「停めるところ」の問題と「酒が飲めない」ふたつの課題がつきまといますな。
あと、年がら年中地べたを掘り起こしてる東京に比べるとやはり道路の劣化が激しい。アスファルトに穴っぽコが多いです。こりゃ、スタットレスタイヤなどの影響もあるのでしょう。
近いうちに、春、また訪れたいと思います。