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小説「怪異談 忠臣蔵」ギャラリー


小説「怪異談忠臣蔵」の、挿絵ギャラリーでございます。

ゾンビの忠臣蔵。
おぞましい感じにて失礼をいたします。


小説「怪異談 忠臣蔵」01(2019.10.06 upload)



小説「怪異談 忠臣蔵」02(2019.10.12 upload)



小説「怪異談 忠臣蔵」03(2019.10.19 upload)



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小説「怪異談 忠臣蔵」17(2020.01.24 upload)-1

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小説「怪異談 忠臣蔵」21(2020.02.22 upload)-1

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小説「怪異談 忠臣蔵」22(2020.02.229 upload)

| もりいくすお | - | comments(2) | - |
小説「怪異談 忠臣蔵」22

小説

怪異談 忠臣蔵

〜ゾンビが出てくるやつ〜
(連載 最終回)
 

 

この作品はフィクションです。文中に出てくる名称と、実在の個人名、団体名とは一切関係がありません。

本編には、暴力的なシーンが含まれてございます。
また、たいそう昔の設定なので、現代では不適切と思われる表現が含まれることもございます。
あらかじめご了承の上、ご覧くださいませ。 

※文中の「のろま」とは、ゾンビのことでございます。
 

 

++++++++++++++++++++


 

 

 見事本懐を遂げた赤穂浅野の浪士たちは、内匠頭の墓前に首級を供えると、揃って愛宕下の大目付宅へ自首をした。

 報告を聞いた老中方一同は、そもそも先の赤穂浅野の処分を残酷と思っていたから、同情をもって評定に及ぶ。

 まずは義党四十六人を四組に分けて、沙汰があるまで、大名屋敷にお預けとした。

(討ち入った四十七士のうち、一名が大石内蔵助の命によって、党中を離れて使者の役目に立っている。)

 

 安兵衛は三田の伊予松山藩・松平隠岐守定直侯の中屋敷に、大石主税ら仲間九名と預けられた。

 ちなみに、義理ある父親の弥兵衛は、内蔵助とともに肥後熊本の城主・細川越中守綱利の、高輪にある下屋敷に預けられている。

 親子兄弟の浪士たちは、分けられたのである。

 

 罪人であるにもかかわらず、松平家のものは安兵衛たちを歓待した。

「いやはや、忠義無類の面々を預かるというのは、名誉である」

 はじめに落ち着いた愛宕の上屋敷から、安全のために三田の中屋敷に移る際は、上杉家の襲撃に備え、仰々しい警護のもとに、浪士十名、駕籠にて丁重に移動させたものだった。

 立派な二間続きの広間に置かれ、膳部もごちそうが出て、安兵衛たちはいささか違和感を感じていた。

 大石主税が風邪を引いた際も、松平家では医師よ薬よと勧めたが

「我々はいずれ天下の御法によって、泉下に赴きまする身の上。ご無用に願います」

 と応じない。

 安兵衛はこれを聴いて

「主税殿。病をお治しになってから、死を賜るのが、肝要かと」

 と助言。

「なるほど。切腹を嫌うて病死するようで、卑怯未練というものか」

 と、服薬を所望する。

 こうしたやりとりを、いちいち係の者が

「さすが器量人…」

 などと感服するのが、安兵衛には体中がこそばゆくなるようで仕方がなかった。

「これも天命」

 のろま百人を相手にしても、びくともしないこの男が、楽々とした毎日において強く自分に言い聞かせるという皮肉な始末。

 いつか懐に入れて気を紛らわしていた、あの三毛猫が恋しくなっていた。

 

 幕府においては赤穂浪士の処分について、議論百出して容易に決まらなかったが、ようやく明くる年二月に、預けられていた諸大名の屋敷内にて「全員切腹」と決まった。

 

 忠義一筋に駆け抜けてきた、堀部安兵衛の心中はまことに光風霽月。

 当日、切腹の座に直ると、介錯人を振り返り

「ご介錯、ご苦労千万。冥土の土産に貴殿のご姓名をうかがいたい」

 まさか、介錯しようという相手から話しかけられるとは思っても見なかった介錯人は、いささかうろたえた。

 安兵衛の介錯を担当することを名誉に思っていて、ただでさえ舞い上がっていたので、なんとか心を落ち着かせようと心がけていたところだったのだ。

「それがし、伊予松山藩徒目付、荒川十太夫と主しまする。此度は有難き幸せ。大切に相務めまする。…堀部様のご高名は末代までも生き続けることでしょう」

「死んでも生き続ける、か。フフフ。されば、のろまになって戻って来んように、いざご介錯、よろしくお頼み申す」

 と、慇懃に挨拶をすると、ニッコリ笑って背を向ける。

 恐ろしいほど豪胆で、最後まで常に変わらぬ漢であった。

 

 辞世を「梓弓(あずさゆみ) ためしにも引け 武士(もののふ)の 道は迷わぬ 跡と思はば」

 と詠んで、悠々と刃(やいば)を受けた。

 享年 三十四歳。

 

 

 

 

 十六 大詰

 

 幕府は吉良邸の検按で、被害状況に併せて邸内にのろまがいないことをたしかめると、そのまま吉良家を断絶した。

 世間の浅野びいきにおもねて、将軍は四十六士に同情を宣明。

 処置を名誉ある切腹として、前年の片落ちの裁定から世間の目を背けさせ、スッカリとていよく後始末を済ませたのである。

 

 陰謀があったと一学が悔やんだ上杉家の、藩主・綱憲は、討ち入りの翌々年に死去。四十二歳であった。

 その母、すなわち上杉家から出た上野介夫人・富子は、討ち入りのある以前に呉服橋の吉良邸を出て、白金の上杉邸で実母や娘と暮らしていたが、実子・綱憲と「同じ年」の夏に死去。

 綱憲の実子で、吉良上野介の養子に迎えられた吉良義周は、後に幕府から「応戦の仕方が不届き」として、傷を負って闘ったにも関わらず領地召し上げの上、諏訪へ流罪となった。

 幽閉を命ぜられた先で四年後、二十一歳の若い生涯を終えている。

 吉良上野介関わりの人物が、討入事件のあとで、次々にこの世を去ったことは、なにかと世間のウワサとなったが、深い詮索は行われなかった。

  

 かくして、こののろま騒動も、大物主神の御心から疫が起こったのだ。…と民衆は信じ、神の怒りが収まったから、事態も鎮静した。と、受け入れた。

 幕府はろくな実態調査も行わず、世にも恐ろしいこの事件の記録は見えなくなり、やがて打ち忘れられてしまう。

 

 サテ、これには、真相があると、諸書が言う怪説がある…。

 実は、将軍その人こそが、小藩取り潰し政策に、まんまと呪術を利用した張本人とする説である。

 祈祷が、のろまの思わぬ大きな効果を出してしまい、それを目の当たりにした将軍自体が、恐ろしくなって、粟を食って臭いものに蓋をしたという説…。

 祟られているとされた将軍家こそが、実は騒動の遠因だったというのである。

 

 呪いの後始末でも悪かったのか、討ち入りのそのあとも、綱吉政権下では、京都の大火や、二度に渡る各地の大地震が度重なり、浅間山や、富士山まで噴火し、散々に政道が脅かされた。

 

 果たして将軍綱吉は祟られたのか、呪ったのか?

  

 大衆は、すべてをなげうって忠義の念を貫いた、赤穂浅野の武士たちの辛苦を同情し、勇気をたたえ、四十六人を「赤穂義士」と言って、もてはやした。

 劇作家たちはこぞって、一連の事件を題材に人形浄瑠璃や芝居にしようとしたが、幕府はそれを「幕政批判」という理由で、ことごとく上演を御指留め、それを徹底した。

 公儀の目を盗むように作家の手から手へ、事件の内容を変えにかえ、もじりにもじって、めでたく千秋楽までやっと漕ぎ着けることが出来た作品は、人形浄瑠璃「仮名手本忠臣蔵」と言った。

 将軍の代も変わった、事件から四十七年も後のことである。

 

 

〜おしまい〜

 

 

 

●<小説「怪異談 忠臣蔵」21はこちら

 

 

◯< いっとう最初はこちら。

 

++++++++++++++++++++

 

〜解説〜

 

 空前のパロディ小説。

 

 「死んでも生き続ける」という落とし噺は、このブログに連載を始めてから、あとで思いついたコジツケでございました。

 

 そもそも

 この「ゾンビ忠臣蔵」は、かつて後輩何人かから(通算3組ぐらいから別口で)

 「ゾンビの忠臣蔵なんて面白いじゃないですか。両方お好きなら、やれば。」

 と、軽く言われて

 「はあ?四十七士はこの世に未練なんか無いのだ。ゾンビになって醜態を晒すようなことが彼らにあるものかっ」

 と、一蹴してたんですが、あるとき

 「いや待てよ。吉良がゾンビならこりゃ、アリかな!?」と盛り上がり、このたび書くにいたった次第。

 吉良=ゾンビ。だからみんなで殺そうとする。

 これだけのポイントにウキウキして、デタラメをふくらませた次第。

 ただ、生理的に始めてしまいましたが、ゾンビはもう、こすられすぎてるんですよね。

 

 ゾンビノンケの皆様方にはさぞかし苦痛(読んでくださっていたとしたら、です)だったことと存じます。(笑)


 で、終わってみると、デタラメを作る初体験で、「ゾンビ」と「忠臣蔵」という突拍子もなく遠い二者を、意外にも、あることないこと、アレコレとつじつまを合わせるのが楽しかったです。

 

 で、上記アイデアとは別に、もっと下品にゾンビを出しゃあよかったなと。意味もなくアチコチに。しょっちゅう。

「忠臣蔵(義士伝)ならこうでなくっちゃ」「ゾンビはそうこなくっちゃ」…を、優先させると、結局どちらも控えめになる。

 両者の世界観を壊さないように気を使ったら、こんなになっちゃった。
 メインカルチャーとサブカルチャーの融合の難しさを痛感いたしました。

 清水一学を主人公にして、内部を探偵するミステリーに重点を置いてもおもしろかったかなー。

 いや、赤穂側の、毛利小平太あたりが、不透明な部分に探りを入れまくって真相に近づいたところで殺されちゃうのも悪くない。

 だから、スピン・オフ、やろうっかな〜。

 ホリの腕っ節や、少年剣士たちの活躍とか、おもしろそうな。

 みなしごの正太郎が強くなるいきさつなんて漫画っぽくて興奮する。

 他の少年&少女剣士とともに、ゾンビ相手に強くなる。それは漫画っぽいなと思ったが、…どんどん「鬼滅」っぽくなるから、よしましょう。

 忠臣蔵人気がいま一つ盛り上がらないいろんな理由のひとつに、四十七士に「もう仕上がっちゃってる感」があることが少なくない。
 ひとは成長ストーリーを好みますからねー。
 だから、この「怪異談 忠臣蔵」ったら、ちっとも浪士が危機に陥らない。このお話の弱点かなと。

 

 挿絵ギャラリーを次回にでも披露させていただこうと思います。

 

 

 

 ご愛読をいただき、ありがとうございました!

 


もりい

| もりいくすお | - | comments(2) | - |
小説「怪異談 忠臣蔵」21

小説

怪異談 忠臣蔵 

〜ゾンビが出てくるやつ〜
(連載21)
 

 

この作品はフィクションです。文中に出てくる名称と、実在の個人名、団体名とは一切関係がありません。

本編には、暴力的なシーンが含まれてございます。
また、たいそう昔の設定なので、現代では不適切と思われる表現が含まれることもございます。
あらかじめご了承の上、ご覧くださいませ。  

※文中の「のろま」とは、ゾンビのことでございます。
 

 

++++++++++++++++++++


 

 

 それから、いつまでたっても肝心の吉良上野介が見つからない。

 一堂は気が気ではなかった。

 何人かの浪士が物置から、空き俵を引っ張りだし、焚き火を始めてしばし当たった。

 遠くではチャンチャンと斬り結ぶ、丁々発止の音が聞こえている。

 斬り合って庭の泉水に落ちた浪士が、ブルブル震えながらやってきた。

「おぉ良い物があった。衣類が濡れて重くてかなわぬ」

「まだ上野殿の在処はわからぬか」

「こう取り囲んだのだから逃しっこない」

「それさ。隣家では高張り提灯を塀越しに掲げてこちらを照らしてくれている。あれは味方だ。塀を越えて逃げれば、匿うことはあるまい」

「ほんとうか。隣家が…」

「本多家、土屋家、我ら推参の由を届け申しおいた際に、どちらも『武士はそうありたいもの。ご不自由の品物あらばなんなりと』と…」

「…我ら忠義の一念を、ご同情くださったのだなあ」

「こうしてはいられぬ」

「うむ。近松様。お先に御免ッ」

「うむ。火の用心は任せろ」

 

 安兵衛が廊下をさらに突き進むと、外に父・弥兵衛が屈強な男に襲われているのが見えた。

 「いざ、かかってまいれ!」

 言ったとたんに弥兵衛、雪に足を滑らせてツルリと仰向けに倒れた。

 しめたと踏み込んだ男は真っ向に振りかぶった。

「父上!」

 安兵衛は、飛び込むが早いか「エイ!」と横に払った一文字。

 見事に胴を斬りこんで、血煙のうちに男は倒れた。

「お怪我はございませんかっ」

「タワケめ!アレは立って戦うには足りぬ相手だから、寝て戦っていたのだ!よけいなことをするな親不孝者!」

「それはそれは…」

 ものすごい強情と負け惜しみに、安兵衛があっけにとられていると、

「安兵衛!」

 見るとそこには袴の股立を高くとりあげて、タスキを十文字に綾なし、布をたたんで鉢巻をした清水一学が立っている。

「一学…」

 ゆっくりと、両手左右に刀を抜いた一学。

「安兵衛…勝負だ!」

 いまは逃れぬ敵と敵。

「心得たり。ここは俺が引き受けました。父上。少しも早く上野めを!」

「しからば。…ぬかるなよ安兵衛」

 弥兵衛はふたりの男の気迫から、何かを読み取り、立ち別れる。

 

「たあっ!」

 一学は右剣左剣の二刀を振るって、電光石火の早業。

 安兵衛が右剣を払えば、左剣がつけいる。

 切ってかかるのを、一上一下打ち合った。

 両者互角に打ち合った間髪に、一学が一件ほどの間合いを作って、荒れた息で話をしだす。

「安兵衛ッ。尊公だから話しをする。

 吉良様はな、上杉家の逆臣に、のろまの毒を盛られたのだっ。…毒を盛った奴はもういまは仏様だ。扱った毒がどうかして、自分に回っちまったのだろう。御主の罰(ばち)。天の罰(ばち)じゃ」

 安兵衛は正眼に構えてジッと聞く。

 先だって言いよどんでいたことはこれか。

「ともあれ米沢様(上杉家)には五代目吉憲様があらしゃる。…そういうことらしい。わしは、わしはもう…この勝手次第なアリサマがわしにはもう、もう小癪に障ってたまらぬ!腸が煮えくり返るようじゃ!」

 悔しそうに独白すると、一学は阿修羅のような勢いで、無二無三に切ってかかってくる。

 安兵衛があとへあとへ下がって、防戦一方になってるとき、一瞬の隙をついて切り込む下をかいくぐり、振り返って打ってかかる一学の胴体半ばを横一文字に引き払った。

 バサッと真っ赤な血が白雪を染め、ドウと倒れた清水一学。

 思わず安兵衛は声をかける。

「一学ッ」

「みごと…」

 顔にかすかな微笑みを浮かべ、続けて虫の息で、まだなにやら言おうとしている。

 安兵衛は、一学の体を少し抱き起こしてやった。  

 悔しさのあまりか、苦痛によってか、起こされた一学の頬に、涙が一筋ハラリと伝った。

 しかし安兵衛にとっては、いまさら他家の事情を聴いてどうなるわけでもなく、究明する筋合いもない。

 が、ともかく一学の忠義が、その一件を許せなかったのであろうと、哀れに思った。

 一学のまなこが弱々しく安兵衛を見上げて

「未練は残るが潔く、大殿様のお屋敷で斬死(きりじに)をするとしよう」

「ご隠居はどこにいるのだ?」

「…足に、…足に枷をされて…」

「カセ?どこかにとらわれているのだな。」

「…目を離している隙に小坊主が…」

「逃した?屋敷内にか?」

「…寒い…」

 寵愛されていた小坊主が、主人を不憫に思って、枷を外したのが運の尽きるところ。

 小坊主は途端に、すっかりのろまに変化していた吉良に、直接噛みつかれた。

 一学が小坊主の愚行に気づいた時は、外された枷だけが残されて部屋はすでにもぬけの殻だったようだ。

 若い者の毒の回りは速く、小坊主はたちまち変化し、フラフラと部屋を出てぐっすり眠っている吉良邸の用人や上杉の附人に、噛み付いて回ったようである。

 愁傷千万なことに、吉良邸はこの夜、ふたつの夜襲を受けているのだ。

「しっかりしろ!足枷をしていたのは寝所か?それともどこか…」

「俺は、冥土にてご奉公いたす……」

 一学はそう言うと、そのままこと切れた。

 

 

 

 

 こころざす吉良上野介が行き方しれずのまま、討ち入りから一時ほど経っていた。

 玄関、次の間、大広間、茶席、庭前…八方に分散し、屋敷の中にうろつくのろまは、すっかり根絶やしにした。

 あらためて決闘を挑む用人の姿も、無くなっていた。

 吉良の状態について、事情が伝令によって仲間に知れ渡る。

 怨敵が屋外に逃亡した気遣いはなさそうであることはいいとして、どこかですでに始末されている場合もあることが、同士たちの気がかりとなった。

「探しだすのがまことに厄介。のろまには気配が無いでのう」

 誰かがそう言って舌打ちをした。

「くたばっておらんければそれで良いっ。我等の手で討つことこそ肝要」

 お互いに、いまさら言っても到底、詮無いこと。

 武運も尽きたかと心を砕いて、いかんと思いながらもついうっかり愚痴になる。

 打ち漏らした場合は、全員その場で切腹が約束されていたが、そうした幕切れは誰一人望んではいない。

 気は急くが、埒があかないまま、時はいたずらに過ぎていく。

  

「安兵衛殿、ご覧じろ。奥に引き戸のような…」

 台所で同士が安兵衛に声をかける。

 隠れ座敷かと、注意深く戸を開けて、黒暗暗とする内部を龕灯を照らしつけてみると、そこは物置のような陰気な部屋だった。

 炭俵などが、ほかの細かい道具と一緒に散乱している。 

「そこは、もう見たぞ」

 誰かが背後から声をかける。

 それでも両人は、部屋の中に進んで羽目を叩き、床に散らかった道具を足で払いながら中へ進む。

 奥に転がってる炭俵のひとつが、ひっくり返った長持の上に乗っかっていた。

 同士が上の俵をどかすと、軽くなった長持がガタガタと動きだした。

 明らかに、なにかにかぶさっている。

 安兵衛と同士が目と目を見合わせて合図をし、同士が手槍をリュウリュウと引き扱き、切っ先を長持にピタリと合わせて下段に構える。

 安兵衛が力任せに長持を蹴っ飛ばすと、その下から、白綸子の寝間着姿で総髪の、眼の色の変わった老人が飛び出した。

「得たりっ」

 と同士が、咄嗟に一足踏み込んで繰り出す槍先を、老人の右腿へグサリと突きこんで手許に引く。

 老人がよろけたところを安兵衛が蹴り倒し、地べたに押し伏せて、額と背中の傷を見るや、十中八九これが吉良に違いないと思うと、手際よく両手を縛り上げた。

 老人はここに迷い込んで勝手に炭俵の下敷きになったのか、誰かが彼を守るために長持をかぶせたのかは、最早わからない。

 ともかく見つけた。やっと見つけた。

「吉良様に相違なかろう」

 同士が襟に下げた呼子をピリピリと吹き出した。

 

 

 

 

 小奴(こやっこ)を引っ立ててきて面通しをし、間違いなく老人が吉良上野介であることを確かめると内蔵助は、同士ふたりに腕と肩を押さえつけられている吉良に頭を下げ

「主君・浅野内匠頭儀は、尊公に対し刃傷つかまつり、事果たさずして当日切腹仰せ付けられ、五万三千石は改易。主君の存意を継いで貴君を怨みたてまつる。尋常にご切腹を願いたてまつる」

 と、挨拶をする。

 百も承知だが、内蔵助の言葉に、相手からは一言もない。

 そんなことよりも、吉良と見えるその老人は、自分を取り押さえている肩にかかった赤穂浪士の手を、亀が餌を求めるように首を伸ばして噛み付こうとしている。

 四位の少将としての高貴さは、そこに微塵も感じられなかった。

「ではご無礼を加え申す段、ご容赦くだされッ!」

 そういうと、こめかみにトドメの一刀を突き刺した。

 クタッとなる吉良老人の身体。

 七つの鐘が遠くに聞こえ、あたりの鶏もその夜明けの間近を告げる。

 

 おわった。

 

 年月を重ねること一年と十ヶ月。やっと本望を遂げることができた。

 血気の面々の中には、感極まって泣いている者もある。

 一番槍の浪士が、斬って落とした吉良の首級を、白綸子の小袖に包み、槍の先につけて高く差し上げた。

 ひとりも欠けていない四十七士は、勇ましくかちどきを上げると、隊伍整然として主君長矩公を葬った高輪の泉岳寺へ、揚々と引き揚げていく。

 その間、一学が真相?を吐露した上杉家は、実は早々と討ち入りの急報を受けていた。

 しかし「国乱の元になる」と言う理由で、吉良家へ応援をいっさい出さなければ、泉岳寺へ引き揚げる赤穂浪士を追いもしなかった。

 

 

〜つづく〜

 

●<小説「怪異談 忠臣蔵」20はこちら

小説「怪異談 忠臣蔵」22はこちら>●

 

◯< いっとう最初はこちら。

 

++++++++++++++++++++

 

〜解説〜

 

 空前のパロディ小説。

 

先回も申し上げましたとおり、謎の多い赤穂事件で作家がデタラメをいたしますと、必ずとばっちりで割りを食うキャラクターというものがございます。

 本作品では、面目ないのですが、米沢藩に申し訳のない疑惑を背負っていただくことにいたしました

 劇中で一学が疑惑に思っているのは、キラさんを疎ましく思っていた家老…ということで、その人はすでにお亡くなりになっている、と言います。

 赤穂事件で討ち入りの時に、上記のようなポストの登場人物って…なんつって。

 

 次回はいよいよ、最終回でございます。


 

更新はだいたい、土曜日とか日曜日です。

 

 

どうぞごひいきに!

 

 


もりい

| もりいくすお | - | comments(2) | - |
小説「怪異談 忠臣蔵」20

小説

怪異談 忠臣蔵

〜ゾンビが出てくるやつ〜
(連載20)
 

 

この作品はフィクションです。文中に出てくる名称と、実在の個人名、団体名とは一切関係がありません。

本編には、暴力的なシーンが含まれてございます。
また、たいそう昔の設定なので、現代では不適切と思われる表現が含まれることもございます。
あらかじめご了承の上、ご覧くださいませ。 

※文中の「のろま」とは、ゾンビのことでございます。
 

 

++++++++++++++++++++


 

 

 おりしもそこへ、表門のほうからとうとうたる陣太鼓の合図が聞こえてくる。

 続けて長屋の雨戸をカスガイで止める音も聞こえてきた。

 ほんとうはこの音こそ、突入の合図のはずであった。

 表門のほうでのろまは、どうした按配なのだろうか。

「手向かいいたさん奴は捨て置く約束でしたが、手はずどおり、のろまは斬ってよろしいな」

 この討ち入りは、松之大廊下の一件を発端として、赤穂浅野が大変になっても、なんの諸表明もしないで涼しい顔の、のろまになった主人をひた隠す、吉良家の言語道断の致し方に対して仕掛けている「戦」である。

 女子供に目なかけそ、逃げるは追うな。歯向かってくるものは皆、容赦はいらぬ。

 この時ばかりは安兵衛とて、なにも迷っていない。

「おのれッ」

 吠えるように叫ぶと、安兵衛目の首根っこめがけて襲ってくるのろまめがけて、ギラリと引き抜いた関孫六、小鬢から顎にかけて斬り下ろした。

 ばったり倒れる吉良邸附人ののろまを眼下にして、安兵衛は自分の中に甦る久しぶりの、「人を斬る手応え」をジットリと感じながら、先に進む。

 敵と渡り合えば武士として名誉もあろうが、ここでのろまに食いつかれて果てたとなれば、犬死にである。

 仲間が大納得して安兵衛に続いた。

 

 またひとり、玄関の戸が開いて、中から寝巻き姿の丸腰の者が顔を出した。

 赤穂浪士一党を見るや

「助かった!赤穂浅野だ!中でのろまが…」

 と、その男が言いかけて、安堵したのもつかの間、すぐに表情がこわばって中のほうを指さしたまま「あ。」と動作が固まった。

 目の前の黒扮装(いでたち)の連中は、のろまの鎮静に来てくれたのか、それとも自分たちを殺しに来たのか、混乱したのである。

 マゴマゴしていたその男は、浪士の見ている前で背後から襲いかかってきたのろまに、首根っこを食いつかれた。

「ぎいいいっ!」

 邸内の者の慌てようから、どうやら今夜にかぎって間も悪く、一党が寝静まっているところへどういうわけか、憑依が広がっていったように見える。

「返り血に気をつけろっ」

 男とのろまの傍らを何人かが通りすぎ、ドカドカと邸内に入って中から、雨戸をつぎつぎに打ちはずした。

「やれやれ」

 通りすがりの浪士が、溜息混じりに太刀の反りに左手を添え、男の首に食らいついてるのろまの眉間に、切っ先を当てると

「エイッ」

 と、一突きしてのろまを倒した。

 

 

 

 

 上杉家の附人や吉良方の用人が、待機してると思われる長屋の戸口や雨戸を、浪士の何人かがカスガイで打ちつけながら

「いま邸内にのろまが大勢現れた!決して出てはならんっ」

 と叫ぶと中から

「…かしこまってござる〜…」

 と間の抜けた返事がして、ついに夜明けまで百人ほど待機していたと言われる家来たちは、蟄伏して誰も長屋から出てこなかった。

 

 暗い邸内を、間ごと間ごとに火の着いたろうそくを燭台に灯して、壁に突き刺して回っている浪士の前に勇ましい声がして

「ちょこざいな赤穂浪人!いざや来たれっ」

 と決闘を申し込んでくる者がいる。

 出会い頭に太刀を振るって渡り合い、二打ち三打ち打ち合ったが、吉良の用人は浪士の太刀先に切り立てられた。

 そこに別の浪士が来て言う

「気の毒だが、斬ったものはかならず額やこめかみに一刺しを忘れるな。やがて起き上がってくるのだから」

「いやしかし、此奴はのろまではないぞ」

「息のあるうちにのろまに食いつかれたら同じことだ。ええい、なんでもいいから」

 と、その浪士は倒れている男にとどめを刺した。

 この咄嗟の意見は、賛否を二分した。

 斬られたからといって、必ずのろまに襲われるとは限らない。
 のろまに襲われなければ、のろまにならない。

 

 大戸を十八貫五百目の大槌で、微塵に打ち砕いてだんだんと奥へ進んでいく安兵衛の前に、大太刀を構えもせずブラリとさせて、立ちはだかるものが現れた。

 隙だらけでどこからも打ち込めるが、これはかえって恐ろしい。

「さては八方破れの構え」

 しかし暗闇に目を凝らしてみると、この男の着物には大量の血が付いている。

「また、のろまか」

 思わぬ肩透かしに気を緩ませたその瞬間、その男がやおら討ってかかってきた。

「おのれ赤穂の痩せ浪人ッ!」

 不意を食った安兵衛は、それを咄嗟に大槌の柄で受ける。

 スパリとふたつに切り折られる柄と槌。

 安兵衛、大槌を捨てると

「えいっ」

 と片手殴りに延びを打って払った。

 相手はそれをヒョイとかわそうとしたが、左の小手を切り落とされた。

「あっ」

 とたじろぐところを踏み込んで、バラリズンと切りおろす。

 そこいらに倒れている仲間の血糊をつけて、のろまの「ふり」をして出てくるものまでがあるものか。

 ともかく想定外の珍事は、よけいな判断を強いて、周到に準備した計画にかずかずの面倒を増やした。

 激しく剣を合わせているところへ、のこのこと割り込んでくるのろまもいた。

 その時ばかりは、一瞬吉良の附人と赤穂の浪士が、息を合わせて邪魔を排するという、一風変わったやりとりもあったものだった。

 あれやこれやとなかなか手間取っていると

「上野介殿、お出会えそうらえ!我らは浅野の浪士。亡君の意趣を継がんがため推参いたしてござる!」

 燗が高ぶった浪士の誰かが思わず叫んだ。

 

 奥殿をこころざして進み行き、屋敷も中頃と思うほどにやって来ると、縁側どおりの廊下で身の丈六尺もあろうかという、鴨居にも背をくぐめるほどの巨漢(おおおとこ)と鉢合わせた。

 片足を引きずってこれまた様子がおかしい。「どっちか!?」

 と声を出したのは、槍が自慢の浪士であった。

 浪士が槍をしごいて、つっかける。

 柄にもなく、身軽にヒョイとかわした大男は、槍の浪士に向かって一太刀振りおろす。

 浪士も軽くかわす。

 そのとき大男の向こうから人影が走り寄ってきた。

「やまっ!」

 同士の合言葉を叫んだこの男は、表門隊の片岡源五右衛門であった。

 浅野内匠頭と最後に会った、あの小姓頭である。

「かわっ!」

 安兵衛が返す。

 考え方の違いを持った浪士も、いまはまとまって討ち入りをしている。

 亡君を想う者。家を想う者。矜持。中にはいさましい活躍によって、再仕官を思い浮かべる者さえある。

 さて、表門隊の片岡が裏門隊の安兵衛と、屋敷の半ばで鉢合わせるということは、屋敷の中での吉良上野介捜索が、かんばしくないことを意味していた。

 のろまの邪魔立てに手こずって、肝心なことが後回しだ。

 

 

 

 

 大男は、前後を睨みつけながら「うあっ」と血反吐を吐いた。

 安兵衛は、蝋燭の灯にこの男の脛がかじられている傷が浮かんだのを見て、ハッとなった。

 その隙に槍の浪士が、拳下りにサッと突く。

 見事な一突きは相手の胸板をとらえたが、大男は突かれたまま、槍の浪士をゆっくりと睨みつける。

 その目はみるみる真っ赤に充血していった。

 大男は胸に突き刺さった槍を、抱えるようにグッと掴むと、自分を軸に槍の浪士を横へ「エイ!」と振り払った。

 浪士は雨戸を突きやぶり、もんどりをうって、庭の雪の中に放り出される。

 が、浪士も槍に食らいついて離さない。

 槍で浪士とつながった大男も、足を踏み滑らして追うように庭に落ちた。 

 ここまで鍵付き槍がグリグリと身体に食い込んでは、とても耐えられないはずなのに、大男はムクムクと立ち上がると、槍を胸に突き刺したまま平然と上段に構えて打ってかかる。

 槍の浪士はそれをかわしながら、しっかりと食い込んだ穂先を前後に動かしながら、急所を捉えようとする。

「こんな槍術もないもんだ」

 手こずっているところへ、通りかかった事情のわからない同士が助太刀をと、大男の背中を切りつけるがびくともしない。

 反対に、のろまの振り回した拳にしたたか顔面をぶつけ、目を回してしまった。

 続けて屋根の上から、大男に向かって半弓の矢を射かけるものもいる。

 矢が刺さっても、なますのようにズタズタになっても戦っている大男の姿が、なにやら次第に天晴に勇ましく見えてきた。

「ひるむなっのろまだ!眉間を割れっ」

 誰かが叫んだが、この大兵の首に向かって上へ切りつけても、なかなか骨に届かず、そこら中に耳が飛び鼻が飛び、顔ばかりが玉鋼(たまはがね)のようにズタズタになっていく。

 返り血が降ってくるのが、いちいち始末に悪い。

 身体中を血に染めた大男は、傷口からドッと血煙をあげながら、胴体に通ったままの槍をグググといっそう手繰り寄せて、槍の浪士に近寄ってくる。

 とっくに穂先は背中を突き通している。

「ええい。いつまで手間どられるぞッ」

 安兵衛は気を焦(いら)ち、後ろから飛びかかると男の脚を片方ずつ、大喝一声切り払った。

 大根のように転がる大男の両足。

 それでも振り返って安兵衛に向かって大刀を振りかざす。

 身の丈がうんと低くなったのでその隙に槍の浪士が刀に持ち替え大上段から

「ヤッ!」

 と脳天に斬り下ろした。

「◯!」

 バックリ頭がふたつに割れた男は、言葉にならない声を発しながら、二言と言わず相果てた。

 

 

〜つづく〜

 

 

 

●<小説「怪異談 忠臣蔵」19はこちら

小説「怪異談 忠臣蔵」21はこちら>●

 

 

◯< いっとう最初はこちら。

 

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〜解説〜

 

 空前のパロディ小説。

 

さあ、いよいよシッチャカメッチャカでございます。

お話はこれからが面白くなるわけですが、なんとなんと、お時間がやってまいりました。

 

大男にやりを突き刺す浪士は、初稿ではその時の安兵衛さんのバディ・前原伊助でした。

でまぁ〜、いつの間にか安兵衛さん大鎚をもってるし、なかなかいいかげんですみません。


 

更新はだいたい、土曜日とか日曜日です。

 

 

どうぞごひいきに!

 

 


もりい

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小説「怪異談 忠臣蔵」19

小説

怪異談 忠臣蔵 

〜ゾンビが出てくるやつ〜
(連載19)
 

 

この作品はフィクションです。文中に出てくる名称と、実在の個人名、団体名とは一切関係がありません。

本編には、暴力的なシーンが含まれてございます。
また、たいそう昔の設定なので、現代では不適切と思われる表現が含まれることもございます。
あらかじめご了承の上、ご覧くださいませ。  

※文中の「のろま」とは、ゾンビのことでございます。
 

 

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 十四 出立

 

 待ちに待った、元禄十五年十二月十四日。

 辛酸ここに一年十ヶ月。

 いよいよ討ち入りの当日。

 月は変わっても日は同じ、故・内匠頭長矩公のご忌日。

 亡君の怨霊を慰むべきときがやってきた。

 この日は夜来から、卍ともえと雪が降りしきり、江戸府中は見渡すかぎりの銀世界。

 

 赤穂浪士たちは、手はずに定められた通りに三々五々、本所林町の堀部親子の浪宅や、同じく本所四つ目にある仲間の浪宅、相生町の米屋(これも仲間の店)に集まった。

 夜半九つ頃、弥兵衛や安兵衛たちは、党中の計略通り、戦闘で慣れきったのろま退治の時の黒小袖に身を包んだ。

 両襟、両袖につけた白い木綿の布に「浅野内匠頭家来なにがし 享年なん歳」と袖印をしたため、半弓、薙刀、くだ槍、手槍など、各々武器を持って支度を整えた。

 皆の支度がひと通り終わると、ホリと母・たねが酒肴を整えた。

「これは菜鳥の吸い物!」

 今宵の門出に「名を取ろう」と洒落た、菜と鴨の吸い物。

 一同は喜んでそれをたいらげた。

 

 かねて打ち合わせの時刻となり、おのおの出で立つ時となる。

 皆が傍らを通り抜ける中

「さあ、いよいよこれから、冷光院様のご無念を晴らすため臣なる道を尽くすつもりだ。不憫だが、前世の宿縁と諦めてくれ」

 別れ際に安兵衛はホリにそう言った。

「あっぱれなお心、泉下におわするお殿様も、さぞかしお喜びにございましょう」

 ホリはにっこり笑った。

「父子打ち揃ってこの大事に加わったことは、末代までの家門のほまれです」

 なにか見繕って、立派な言葉をかけようとしているホリに、安兵衛は

「短い間であったが、よく尽くしてくれたな…。礼を言うぞ。堅固で暮らせよ」

 優しい言葉をかけられて、ホリは表情を歪ませると、これが今生の別れになるのかと思わず知らず、こらえていた涙を、ポロポロと流した。

「これを。今宵のはなむけでございます」

 ホリはそういうと奉書紙の包を差し出した。

 それを受け取ると安兵衛は、義理の母、弥兵衛の妻であるたねに向きなおり

「子たる道も尽くさず、お別れを致しまする不孝の段は、幾重にもご容赦くださいますよう…」

 たねはニッコリと、黙って安兵衛を見て頷いた。

 幼い時に実の母をなくした安兵衛と、若くして実の息子をなくした堀部夫婦との相性は、これまでたいそう良かった。

「めでたき門出に涙は不吉じゃっ」

 弥兵衛が割って入った。

「笑えっ」

 無茶な号令に四人は

「うふふふ」

「あははは」

 と、せき来る涙を笑いに紛らわせた。

 いつもの堀部家の戯れ。最後の戯れである。

 

 切戸を開けると降り続いた雪はすっかりやんで、月が寒月中空に冴え渡り、こうこうと積雪の上を照らし、真昼のように明るかった。

 道は凍って足場も良い。

 

「達者で暮らせ」

 弥兵衛はぶっきらぼうに一言だけ家族にそういうと、仲間の集まる蕎麦屋に向かって歩き出した。

 途中、安兵衛がみちみち紙包みを開いてみると、一握りの黒髪と、赤い緋縮緬の扱き帯の布ぎぬが入っていた。

 これぞ高田馬場のえにし。

 安兵衛が堀部家に入る前、高田馬場の決闘において、見物のホリから「たすきに」と扱き帯を差し入れられたのが、出逢いのキッカケであった。

「ホリ。かたじけないぞ…」

「思えば浮世は夢であるのう」

 弥兵衛が独り言を言った。

 

 

 

 

 十五 討ち入 

 

 この日まで、先だって清水一学が言ったとおり、憑依されているのは吉良上野介ひとりだけなのか、それとも邸内は中野の犬屋敷のように、のろまでいっぱいなのか?

 …蓋を開けてみるまで、まったくわからなかった。

 新宿騒動から三年近く経っており、赤穂浅野が改易になって、一年十ヶ月。

 この数カ月の偵察のうちでも、これといった異常はない。

 もっとも、吉良の姿を見知った仲間は、ひとりもいなかったが…。

 つまるところ、吉良邸内は、清水一学ほか、手練れの剣豪が待ち構えているであろう、という予想があらかただった。

 それでも、月命日が討ち入りの日となったのも、亡君のお導きと、みな武運を信じきっていた。

 

 出動した一味の同士の数は四十七人。

 

 時刻は寅の上刻。

 吉良の屋敷に到着した四十七名は、東西に別れ、表門隊二十四人と、安兵衛がいる裏門隊は大石内蔵助の長子、時に十五歳の年若な主税(ちから)を大将として、二十三人から入り込む。

 表門の合図を待ってから、裏門隊が突入する手はずで、門を大鎚(掛矢)でぶち壊そうとする担当が、今か今かとその時を待ち受ける。

 すると不意に通用門が中から開いた。

 ヒョッコリ出てきたのは門番であった。

 赤穂浪士を見てびっくりしていたが、浪士たちもびっくりした。思わず安兵衛が

 「神妙にいたせ。我々は亡君・浅野内匠頭家来…」

 と、静かに言いかけたところで、みなまで聴かず門番が「お助けを!」と言って、邸内に引き返すのかと思いきや、いきなり安兵衛に飛びついてきた…が、安兵衛は咄嗟に雪の上へ張り倒して、しがみつかせなかった。 

 まさかの行動にあっけにとられていると、すぐそのあとから、目を真っ赤にした灰色の面相の男がのっそりと出てきた。

「あッのろま!」

 言うが早いか、安兵衛はのろまの腹を思い切り蹴って、邸内に押し戻した。

 裏門隊二十三人は、近くの者と顔を見合わせて、無言のうちにじゃっかんの作戦変更を承知した。

 まずは門を打ち砕くのをやめる。

 

 しかし、もうひとつ状況が飲み込めない。

 ふだんから吉良邸はこういう状況なのか?

 それとも赤穂浪士が来るということを察して、番犬のごとく、かくれのろまでも解き放したのか。

 

 一同は小さな通用門から次々に門内になだれ込んだあと、すぐにあとをピッタリ締めた。 

 堅牢にしてのろまを封じ込めるつもりだ。

 さてこそ庭には、あっちこっちでふらふらしているのろまがいる。

 それが赤穂浪士突入の物音に、一斉に振り向いた。

 襟首を掴まれて邸内に戻される、先ほどの門番は

「どうかお助けを!」

 と、抵抗をした。

「心配いたすな。お前たち下郎の関係したことではない。」

「なんの、あたしが怖いのは、のろまのほうなんで。」

 聞きたいことがあったが、男は門から出られないと知るや、浪士の手を振り払って、こけつまろびつ、庭の奥の方へと駆けて行った。

 半弓に手をかけたものがいたが

「かまうな」

 と安兵衛が言う。

 

 

 

 

〜つづく〜

 

 

●<小説「怪異談 忠臣蔵」18はこちら

小説「怪異談 忠臣蔵」20はこちら>●

 

 

◯< いっとう最初はこちら。

 

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〜解説〜

 

 空前のパロディ小説。

 

さあ、いよいよ討ち入りでございます!

 

2月のリリースに季節感もなにもあったものじゃございませんが、とはいえ四十六士のご命日近くでございますので、功徳になったらいいなあ。

お話はこれからが面白くなるわけですが、なんとなんと、お時間がやってまいりました。


 

更新はだいたい、土曜日とか日曜日です。

 

 

どうぞごひいきに!

 

 


もりい

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